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絶対に正体がバレてはいけない魔法学園生活  作者: かわいさん


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第22話 期末試験 前編

 あの宣戦布告から一か月以上が経過した。


 季節は夏。

 

 夏休みのカウントダウンがそろそろ始まろうというその日、姫華学園は異様な緊張感に包まれていた。


「いよいよ実技試験か」

「あぁ、緊張してきた」

「魔法学自信ないからここで挽回しないと」


 本日は期末試験の実技当日。


 期末試験でも中間試験と同じく魔法学と実技の試験がある。


 昨日行われた魔法学の授業では中間試験よりも遥かに難しくなった問題に多くの生徒が悪戦苦闘していた。


 魔法使いは実力主義だ。


 卒業後の進路は成績で決まる。良い成績で卒業すればそれだけ選択肢も増える。生徒は当然必死になる。


 まだ高校一年生とはいえ、試験の結果は今後を大きく左右する。


 二学期からは成績によって授業内容が一部異なることが既に発表されている。今後を考えるのなら成績上位に食い込みたいと思うのが普通だ。例の校長からの指導というのもある。


 上級生になると重要度は増し、文字通り人生に大きな影響を与えるものだ。

 

 重要なその日の朝、登校した俺達はグラウンドの奥にある建物に移動させられた。


 長方形の建物の中にはいくつもの扉が設置されていた。他のクラスの生徒も扉の前に集められている。どうやら実技試験はこの中で行われるらしい。


 緊張する面々の中で、俺はいつものように憮然とした表情で佇む。内心では何が起こるのか不安に駆られていたが、表には出さない。この演技にもすっかり慣れたものだ。


「遂にこの日が来たね、中館君」

「……そうだな」


 隣から聞こえる秋人の声に小さく頷いた。


 秋人の表情はここ一か月で明るくなった。


 あれから、春香は幼馴染達に俺のことを話した。


 最初こそ理解できなかったらしいが、俺が生きていると知って全員涙を流したという。


 後から秋人に聞いた話だ。


 いやまあ、最初から生きてるけどね。


 それから話し合って仲直りしたようだ。いきなりは難しかったみたいだが、日々関係が修繕されていくのがわかった。少しずつぎこちなさはなくなり、以前のような親友に戻りつつあった。


 真相を知った今となっては元の関係に早く戻って欲しいと願うばかりだ。


 ちなみに俺は北の地域で生活していることになっているので、街で見かけたのは人違いって結論が出された。


「ったく、どいつもこいつも期待しすぎだろ。要するに国の犬じゃねえか」

「そうそう、あたし等に自由はないってのにさ」


 冬樹と夏美がそう言って笑う。


 吐き捨てるように言いながらも、二人の顔は明るかった。


「こらっ、ぼやかないの」


 いつものように春香がなだめる。


 そんな様子を見ながら秋人がくすくすと笑う。


 懐かしい様子に心が安らぎながらも、その輪の中に自分がいないことに一抹の寂しさを覚えていた。


「……南田、実技試験の内容はわからないのか?」

「例の友達に聞いたけど、彼も知らないみたい。お兄さんが教えてくれなかったんだって」

「そうか」

「お兄さんは喋りたがらなかったみたいだよ。とにかく精神的にきついって話だけは聞けたみたいだけど」


 精神的にきつい試験ね。


 内容はわからないが、手は抜けない。


 ここでバレたら全部水の泡だ。ここさえ乗り切ればすべてが上手くいく。


「では、これより実技試験を開始する」


 扉の前に立った先生が口を開く。


「試験内容は簡単だ。この扉を開けて中に入り、戻ってくることだ」


 それが試験?


 あまりにも簡単な内容に全員呆気に取られている。


「クリアまでのタイムが成績となる」


 なるほど、タイムアタック形式の試験か。


 ということは、扉の先では戦闘が待っているのだろう。


 中間試験と違って生徒同士の戦いではないようだ。事情を知った今の状況であいつ等に攻撃はしたくないので気分的には楽だったりする。


「試験中は魔法の使用が許可される。無事に戻って来ることを祈っている。放課後まで戻らない場合はこちらから救助に向かう」


 不安すぎる言葉を最後に、試験が開始された。


 ◇


「……へ?」


 突然すぎる展開に俺は思わず言葉を漏らした。


 扉が繋がっていたのは学校の教室だった。


 しかし扉の先は姫華学園ではなかった。


 見覚えのあるその場所は、転校する前の中学校だ。俺が着ている制服もいつの間にか中学校のものに変化していた。


 背後を見る。いつの間にか扉は消えていた。


「おはよう、颯ちゃん」


 状況が把握できずにいると、不意に春香が抱きついてきた。春香も中学時代の制服をまとっていた。


 頭が追い付かない。春香には俺の正体がバレていないはずだが。


「ったく、目の前でイチャイチャしやがってよ」

「あたし等がいることも忘れるなっての」


 春香の後ろからやってきた冬樹と夏美が呆れた表情を浮かべている。


「まあまあ、いつものことだから諦めなよ。それに今日は二人が付き合って一年の記念日だしね。イチャイチャするくらい許してあげなって」


 教室の中からニコニコしながら秋人が近づいてきた。 


 何だこの状況は?

 付き合って一年?


「あの伝説的告白からもう一年になるのか」

「凄かったよね、春香の告白」

「全校生徒の前でよく言えるよな。俺には一生無理だな」


 春香の告白?


 記憶にない。あるはずがない。


「二人のことより、冬樹と夏美は勉強しといたほうがいいよ。そろそろ高校受験だからね」

 

 高校受験?


「ゲッ、嫌なこと思い出させるなよ」

「テンション下がるわぁ」


 何だこの会話は。


「颯太はいいよな。春香に付きっきりで教えてもらってから成績急上昇だし」

「ホントホント、あたしにも春香レンタルさせてよ」

「おっ、それいいな」


 二人に向けて春香は勝ち誇った笑みを浮かべる。


「ダメ、私は颯ちゃん専用だから!」


 会話を聞きながら考える。


 これ、もしかして現実じゃない?


 その時、試験直前に秋人から聞いた「精神的にきつい」という言葉を思い出した。

 

 っ、そういうことか。


 これは夢というか、幻覚みたいなものだろう。


 それも単なる夢じゃない。多分、これは思い描いていた理想の未来とか過去を見せるって感じの試験だ。こうなってほしかったという願望の世界。

 

 えげつない試験内容に冷や汗が流れた。

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