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絶対に正体がバレてはいけない魔法学園生活  作者: かわいさん


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第20話 相談と電話

 悠長に状況を見守っている場合ではない。


 放課後、近衛先生に話を持ちかけることにした。


 職員室にいた先生はスマホでアプリゲームをしていたが、俺の接近に気付くと急に書類仕事をはじめた。あえて指摘するようなマネはしない。


「話があります」

「中館か。どうした?」

「東山春香のことです」


 先生は手を止めた。


「東山か。ここ数日、授業に身が入っていないな。正確には中間試験の少し前からか。何か事情を知っているのか?」


 春香が少しおかしいことは先生も気付いていたらしい。


「実はあいつ、問題を抱えてるみたいで」

「問題?」

「元々暮らしていた場所に友達がいたらしくて、そいつに似た奴を偶然見かけたらしいんです。それで精神的に不安定になってるみたいです。どうやら魔法使いになった件でその友達とケンカしたみたいで、謝りたいみたいです」


 俺と春香達が知り合いなのは秘密にしておく。


 事情を聞いた先生じゃ大きく息を吐いた。


「……今年も出てしまったか」

「どういうことですか?」

「例年、こういった生徒が数人出るんだ。魔法使いになるためにここに入学を強制される。それはつまり、地元の友達や恋人と同じ高校に進学できないということだ。そのせいで悲しみに暮れてしまう生徒が毎年出る。他にも家族と離れてホームシックになる生徒もいるな」


 家族と強制的に離されればそうなることもあるかもな。


「寮生活が苦手な者もいる。そういった生徒の場合にはあからじめこっちに引っ越していたりするんだ」


 校長は俺が地元の人間だと知って驚いていたのもそれが理由だろうな。


 確かに友人やら恋人と強制的な別れになるのは辛いし、家族と離れ離れになるのが寂しいと感じる生徒もいるだろう。


「とはいえ、難しい問題だな」


 先生が唸る。


「その問題、俺が解決します」

「出来るのか?」

「はい。あいつの友達のフリをしてみます」

「は?」


 俺の発言に先生は目をぱちくりさせた。


 その反応は至極まともだろう。


「いや、それは……大丈夫なのか?」

「大丈夫ですよ。口裏を合わせますから」

「絶対バレるだろ!」


 普通ならそう思うだろう。


 友達のフリをするとか意味不明どころか無謀でしかない。しかし俺には出来る。むしろ俺にしかできないことだ。後は先生に協力してもらうだけ。


「考えてください。もし東山がこのままそれを気にして、期末試験でボロボロだったらどうなりますかね」

「むっ?」

「その場合って、指導してた近衛先生の責任問題ですよね。あいつは特待生で、今年の注目株の一人でしょう。その生徒がおかしくなったら責任はどうなりますかね」

「……まずいだろうな」


 管理責任を問われるだろう。


「確かにどうにかしたいが、やはり難しいだろう」

「大丈夫です。あいつの幼馴染から情報を仕入れてますから」

「それでも――」

「大丈夫です。俺に任せてくださいっ」


 自信満々に言うと、先生は視線を俺に向ける。


「だが、どうして中館が東山に構う。おまえと東山は学校でも話す間柄ではないだろう。資料を見るかぎり暮らしていた場所も大きく異なるはずだが」


 想定内の質問だ。


「実はその友達っていうのは東山の幼馴染で、あいつの幼馴染達全員の知り合いみたいなんですよ」

「なに?」

「で、俺の相方は南田ですから」

「……南田まで腑抜けになっては困る、というわけか」

「そういうことです。授業でも二人組が結構多いし」


 俺のキャラに関しては先生も納得しているところだ。秋人の奴がどうにかなったら俺にまで影響がある。秋人以外は俺と組みたくないだろうし。


「いいだろう。協力しよう」

「ありがとうございます」

「だが、本当に行けるのか?」

「作戦があります。ちょっとだけ手伝ってくれると助かります」


 俺達は具体的な内容を詰めた。


 ◇


 翌日の放課後。


 俺は春香と共に校長室にいた。


 あれから校長にも事情を話し、協力してもらった。特待生を助けるためと言ったら校長も喜んで協力してくれた。元々、ホームシックやら似たような感じでメンタルが壊れそうな生徒のケアをしていたらしい。


「どうして校長室に?」


 連れて来られた春香は状況が把握できていなかった。

 

「実はな、おまえの友人を突き止めたんだ」

「へっ」


 意味がわからないと春香が目を瞬く。

 

「実はな、先生と校長に協力してもらったんだ」

「えっ――」


 春香は困惑しながら先生のほうを見た。


 教師に知られたことにビックリしているのだろう。


「安心しろ。先生は味方だ。事情を話したら協力してくれることになった」


 春香は近衛先生のほうを向く。


「うむ。授業に身が入っていないと困るからな」

「そういうことだ。調べるのを手伝うと言っただろ。とはいえ、俺が学園の外で魔法を使ったら問題だからな。先生に相談した。これでデバイスを拾ってもらった恩は返したぞ」


 あくまでもデバイスを拾った恩を返した、という名目を忘れない。


 校長室にある固定電話に視線を向ける。


「すでに電話は繋がっている。相手は東山の友達である少年だ」

「颯ちゃんに!?」

 

 信じられないとばかりに春香が目を見開く。


「中館の話を聞いて少し調べたら、私の知り合いが勤める高校に通っていることが判明した。少年に東山のことを話したら是非会話をしたいと言ってくれたよ」

「でも、颯ちゃんは――」


 本当に生きているとは思っていなかったのか、春香は完全に混乱していた。


「いいから話してみろ」

「中館君?」

「言っておくが、魔法のことは話すなよ。興奮して話しかねないから、先生に見張ってもらうことにした」


 最後にそう言って、扉に向かう。


「じゃあ、俺は外に出てる」


 部屋を出て、扉の前でスマホに耳に当てる。


 しばらくして。


『もしもし……あの、ホントに颯ちゃんなの?』

「おう、その声は春香じゃねえか。久しぶりだな」


 昔に近づけるために若干高い声を出す。


 春香がごくりと唾を飲みこんだ音が聞こえた。

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