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絶対に正体がバレてはいけない魔法学園生活  作者: かわいさん


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第13話 亡くなった友達

 教室を出て昇降口に向かうと、冬樹が一人で立っていた。近くには誰もいない。


 春香と秋人はどうした?


 気にはなったが、わざわざ声を掛けるようなマネはしない。靴を履き替え、一歩踏み出す。


「……ちょっといいか」


 踏み出したところで冬樹が口を開いた。


「何だ?」

「さっきはみっともねえところ見せちまったな」


 目が合ったのは気のせいじゃなかったのか。


 しかし、わざわざ話しかけてきたってことはもしかして俺を待っていたのか?


「フン、別にケンカくらい誰でもするだろ」

「まあな。けど、今回のはちょっと事情が複雑でな」

「……幽霊が出たんだろ」

「っ、夏美から聞いたのか?」

「別に聞きたくなかったが、あいつが勝手に喋り出した」


 冬樹は大きく息を吐いた。


「あのお喋り女がよ……まあ、言っちまったならしょうがねえか。その通りだ。夏美の奴がこの世にいないはずの”あいつ”を見たとか言い出してな。昨日の夜はちょっとした修羅場だったんだぜ」


 元気だけが取り柄みたいな冬樹が随分と憔悴していた。相当揉めたのがわかる。


「……わざわざ声を掛けてきたんだ。俺に何か話があるんだろ?」


 そう切り出すと、冬樹は頷いた。


「頼みがある。夏美のアホの見間違いだとは思うけど、あいつがあそこまで言うなら可能性はゼロじゃないかもって思ってさ」

「探すのを手伝ってくれ、と」

「ほら、中館は寮暮らしじゃないだろ。外を自由に出歩けるなら夏美が見た幽霊を見つけられるかもしれないし」


 さて、どうするか。


 断って帰るのがここでの俺のキャラだが、それにしても脳筋の冬樹まで幽霊に動揺しているのは気になるところだ。


 こいつ等が全員知っている相手で、しかもあれだけの修羅場を展開するような相手だ。


 どうやらそいつは亡くなっているみたいだが、仮にあの中学の出身者なら知り合いかもしれない。

 

 しばし思考を働かせていると、冬樹が意外そうな顔をしているのに気付いた。


「何だその顔は?」 

「……いや、あっさり断られると思ってたから意外でな」

「言っておくが興味はないぞ。だが、南田秋人は俺のペアだ。余計なことに意識を持っていかれて中間試験で足を引っ張ってもらいたくはない」

「ああ、そういうことか」


 キャラが崩れないような言い方に冬樹は納得した。


「けど、ホントに馬鹿々々しい話さ。幽霊とかこの世にいるはずがないってわかってるんだけどな。あいつの話になると全員過敏になっちまってな」

「……重要な奴だったのか?」

「大事な友達だ。昔からのな」


 昔からの大事な友達ね。


 えっ、誰だ?


 こいつ等の共通の友達とか記憶にないぞ。


 俺が転校した後に仲良くなり、それから事故にでも遭ったのだろうか。でもって、そいつがきっかけでこいつ等の関係が悪化したとか仮説を立ててみる。


 ありえない話ではないだろう。


 転校してから一年半以上も経過している。その間に全員共通の親友みたいな奴が登場していたとしても全然不思議ではない。


 ただ、一年半くらいの付き合いで昔からの友達になるだろうか?


 感覚は人それぞれか。


 その友達を見たってのは恐らくは夏美の見間違いだろう。似たような顔の奴に違いない。死者を蘇らせる魔法は今のところ存在していないと先生も言っていた。


 待てよ、この情報は使えるかもしれないぞ。


 頭の中にある考えた閃いた。


 この辺りには連中にとって大事な友達にそっくりな奴がいるわけだ。そいつを俺が見つければどうだろう。


 情報と引き換えに様々な要求ができる。こいつ等が情報欲しさに俺に媚びる姿を想像するだけで気分がいい。あの時の恨みを晴らすいい機会じゃないか。


「いいだろう。そいつの情報を教えろ」

「へっ?」


 驚いた冬樹が顔を上げる。


「だから、調べてやるって言ってるんだ。探索魔法もあるしな」

「へえ、便利な魔法があるんだな」

「常識だぞ」


 実在するか知らんけど。


 仮にそういった魔法がなくてもこっちには校長もいるし、近場なら祖父母の人脈もある。容姿の特徴さえわかればグッと探しやすくなるだろう。


「マジで協力してくれるのか?」

「中途半端に聞かされて気分が悪いからな。それに、もし本当に生き返ったとしたら興味がある。新しい魔法の可能性もある」

「っ、なるほどな。姫華学園が近いからその可能性もあるわけだ」


 魔法学園があるくらいだし、近所に魔法使いが居ても不思議じゃない。そう考えて勝手に勘違いしてくれたらしい。


「まっ、どうせあの女の見間違いだろうけどな」

「同感だぜ」

「あ、そうだ。俺が探ってることは誰にも言うなよ」

「何故だ?」

「ぬか喜びされるのが嫌だからだ。探せなかった俺が無能扱いされるのは気に食わん。そもそもあの女の見間違いって線が一番高いわけだしな」

「なるほど、そりゃそうだな。わかったぜ」


 単純な冬樹は納得してくれた。


 上手くいった。夏美からの依頼を断った手前、情報を共有されると面倒になるからな。


「で、探してる奴の特徴は?」

「特徴って言われてもな。夏美の話だと身長は昔より伸びてたみたいだし、顔も大人っぽくなってたらしいからな」


 そりゃ別人だからだろうよ。


 などと正論をぶつけるわけにはいかない。


「何でもいい。顔とか外見の特徴を教えろ」

「口で説明すると難しいな。あっ、そういや写真があるわ」


 冬樹はスマホを取り出した。


 スマホを操作すると、ある画像を引っ張り出してきた。


「中学の頃に撮ったものだからかなり昔のものだ。あいつとは仲が良すぎて写真とか残さなかったんだ。いつも隣にいて当たり前だったからな。だから残ってるのも集合写真みたいなのしかなくてな」

「……」


 その画像を前に俺は固まった。


 画像には見慣れた五人組の姿があったから。


「……なあ、亡くなった友達の名前は?」


 恐る恐る尋ねると冬樹はゆっくりと息を吐いた。


 そして、口を開く。


「外峯颯太だ」


 亡くなった友達は俺だった。

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