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絶対に正体がバレてはいけない魔法学園生活  作者: かわいさん


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第10話 初ダンジョン 後編

 扉を開けて部屋の中を覗くと、五メートル以上ある巨大なゴーレムがいた。


 ゴーレムの後ろには扉がある。恐らくそこが出口なのだろう。ゴーレムは扉を守るように立っていた。


「出口を守ってるみたいだし、あれってボスかな?」

「……らしいな」


 部屋の様子を見るが、室内には誰もいない。道中は一本道だったので他に行く場所はなかった。


「他の皆はこいつを倒したってことだよね」


 道中で誰も見かけなかったし、一本道だったので間違いないだろう。


 だとしたらあのゴーレムが見掛け倒しの可能性も十分ある。いくら何でも下級魔法しか覚えていない状況で戦うのは無理があるサイズだ。


 分析していると、隣から唾を飲み込む音が聞こえた。


「相手がでかくてやることは変わらない」

「……中館君?」

「サイズが大きくなってもあいつは単なるゴーレムだ。見ろ、胸にでかいコアがある。どれだけ巨大だろうとコアが弱点だ。あれを破壊すれば止まる」


 サイズの大小に関係なくゴーレムはコアさえ潰せば動かなくなる。授業で習った基本だ。


 全員が合格したであろう初のダンジョン探索で失敗はできない。


 ここで評価を落としてしまえば他の連中からバッシングを受ける。授業を受けろと言われるだろう。そうなったら秘密がバレて終わりだ。


 いよいよ俺も参戦だな。


 先生の言う通り、俺もここで魔導具を使っておいたほうがいいだろう。初戦がボスになるのは少し不安だが、道中では秋人が無双していたので仕方ない。


「……あの、ありがとね」


 不意に秋人が漏らした。


「正直ビビってた。勝てないかもしれないって」

「……」

「でも、僕だって魔法使いなんだ。目的のためにも簡単に倒れるわけにはいかないよね。必ずクリアしよう」


 目的って言葉が気になったが、考えるのは今じゃない。


「おまえが倒せそうになかったら俺も戦う。だから安心して戦え」

「了解。それじゃ、行こう」


 室内に足を踏み出した。


 入室が起動の合図だったらしく、ゴーレムが動き出した。先ほどの小さなゴーレムよりも明らかに動きが滑らかだった。


「食らえっ!」


 秋人のファイアボールがゴーレムに襲い掛かる。


 攻撃はコアに直撃コースだったが、ゴーレムは太い腕でファイアボールを弾いた。


「っ、防がれた!?」


 驚愕しながらも、秋人はその後も連続で魔法を放った。見事なコントロールだが、ゴーレムは攻撃を丁寧にブロックしていく。


 おいおい、さっきまでのゴーレムとはレベルが違いすぎるだろ。防御するとか聞いてないぞ。しかも攻撃を防いだ腕には全くダメージが通ってない。


「あ、あれ?」


 突然、魔法を連発していた秋人がデバイスを連打しながら焦ったような声を上げた。

 

 魔力切れか?


 魔力が無くなると魔法は発動しなくなる。あれだけ魔法を連続で放っていたらそうなるのも必然だ。


 攻撃が止んだことで守りを固めていたゴーレムが動き出した。


「っ、避けろ――っ!」


 ゴーレムは図体の割に素早い動きで秋人に近づくと、迷わず拳を振るった。焦っていた秋人は回避行動ができず、攻撃をモロに食らった。


 腹部に拳を受けた秋人の体がピンポン玉のように吹き飛び、壁に強く打ちつけられた。


「秋人っ!」


 その時、体が勝手に動いた。


 デバイスを取り出し、アプリを起動させる。


 魔導具には二種類ある。


 一つは強制で効果を発動させるタイプのもの。俺が持っていた打ち消しの魔法が込められた指輪がこれに相当する。


 もう一つは発動を選べるタイプのもの。


 校長から渡された魔導具は後者のタイプだ。


 俺のデバイスはすでに魔導具と連動させており、アプリから魔導具を起動させることができる。パッと見れば魔法を使っているように映る。無論、これも校長が考えた仕掛けだ。


 デバイスに表示されている「身体強化・特大」を発動させる。


「うおっ!」


 タップした途端、羽が生えたと感じるくらい体が軽くなった。


 その感覚に驚いていると、秋人を倒したゴーレムはこちらに狙いを定めて向かってくる。


 俺は軽くなった体を操り、体当たりを難なく躱した。自分の動きが速すぎて転びそうになる。一度距離を取った。


 攻撃を避けられるのはいいが、どうする?


 相手の大きさからして攻撃が通じるかわからない。


 渡された魔導具はもう一つあるが、それを利用するのは避けたい。校長からは強力すぎるので切り札にしておけと釘を刺されている。


「……」


 肉弾戦しかない。


 大きくなってもコアが弱点なのは変わらないし、さっきの攻防でゴーレムは俺よりも遥かに動きが遅いのがわかった。


 覚悟を決め、速度を活かしてゴーレムの懐に入りこむ。


 剥き出しになっているコアに向けて拳を振るった。


 しかし、攻撃は太い腕に妨害された。


 相手が岩なので拳のダメージを心配したが、信じられないことが起こった。


「……マジかよ」


 強化された俺の拳は巨大な腕を破壊した。腕に痛みはない。


 動きだけなくパンチ力も随分と向上しているらしい。格闘技の経験などない。この威力は魔導具の力によるものだ。


 想像以上の身体強化に驚いたが、これなら相手がデカブツでも勝てる。


「オラオラオラオラオラッ!」


 攻撃が通るとわかればこっちのものだ。俺は素早く動いてかく乱しながら、ゴーレムに向けて拳を振っていく。


 連打で腕を吹き飛ばしていくと、ついに拳がコアに届いた。


 人間の頭くらいある巨大なコアを殴った瞬間、ゴーレムはその機能を停止させた。


「……終わったのか」


 しかし、恐ろしい程の身体能力向上だな。普段の倍どころじゃないぞ。数倍の力が出ていたはずだ。筋肉痛になりそうでちょっと怖い。


 改めて魔法の凄さに驚きながら、倒れている秋人のほうに駆けよる。


 どうやら秋人は無事らしい。近づくと自分で立ち上がった。


「大丈夫か?」

「う、うん、平気だよ。見た目ほど攻撃力は高くないみたい」


 派手に吹き飛ばされていたが、想像よりもダメージはないようだ。


「ったく、油断しすぎだぞ」

「ゴメンね。励ましてもらったのに、足引っ張っちゃって」

「別にいい」


 歩き出した俺に「あっ、待って」と後ろから声が掛かる。


「助けてくれてありがと」

「……別におまえを助けたわけじゃない。ここで失敗したら俺が無能だと思われる。それが嫌なだけだ」


 そうだ、こいつを助けたわけじゃない。


 万が一にでも死なれて警察が介入みたいな展開になったら俺の正体がバレると思っただけだ。他意はない。


「ほら、出口だ」


 俺達は外に出た。


 ◇


 外に出ると、クラスメイト達の歓声で迎えられた。


 状況が整理できずに困惑していると、先生が前に出てきた。


「よくやった。あれを倒したのはおまえ達だけだ。あのゴーレムは魔法が使えるようになって調子に乗っている新入生に痛い目をみせるために用意されたもので、新入生のレベルで勝つのは困難な相手だ。もっとも、安全面には注意して攻撃力のほうは抑えていたがな」


 だから秋人は無事だったのか。


 クラスメイト達の視線がこちらに向く。正確には隣の秋人に。その視線には賞賛が含まれていた。どうやらボスを倒したのは秋人だと思っているらしい。


「あっ、倒したのは僕じゃないよ。僕はあいつの攻撃ですぐに倒れちゃったから」


 視線が俺に集まる。


「ホントに凄かったよ。恐ろしい速さで動いて、あっという間にコアを停止させたんだ。多分、あれって身体を強化する魔法だと思うんだけど」


 秋人が興奮気味に説明する。


「ふむ、それは身体強化だな」


 説明を聞いた先生が答える。


「文字通り身体を強化する魔法だ。非常に便利な魔法だが、繊細な魔力コントロールが必要とされる扱いの難しい魔法だ。それをあっさりと使いこなすとは、さすがは学年首席だ」


 先生はクラスメイト達にわかりやすいように説明した。


 明らかに俺を持ち上げる発言だ。


 意図は理解した。


 こうして実力を示しておけば絡まれる心配もなくなるし、魔法が使えないとバレにくい状況を作れる。さらに言えば授業を見学していても問題ないという空気に持っていきたかったのだろう。


「当然ですよ、先生。俺は最強ですから」

「頼もしいな。その調子で頼むぞ」


 素直に賛辞を受け入れた。


 その時、ふと強い視線を感じた。


 視線の主は春香だった。まるで親の仇かのように俺を睨みつけていた。


 ……何だ?


 睨まれる理由がさっぱりわからない。ここまでの生活で接点はなかったし、恨まれるような行為をした記憶もない。入学直後のアレが原因だとしたら普段から睨まれているはずだ。


 あれか、自分がクリアできなかったのに俺がクリアできて悔しかったとか?


 まあいい。睨まれたところで知ったこっちゃない。ちょっかい出してこないなら相手にする必要はないだろう。


 こうして初のダンジョン探索は無事に終わった。

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