プロローグ
世の中で最も大切なものは?
その答えは人によって様々だが、回答の多くは「お金・愛・家族・命・健康・友達」のどれかだろう。学生なら友達と答える割合は大人より多いかもしれない。
あえて言おう、友達などクソであると。
友達とか金で買える程度のものだ。家族と違って法的な関わりのない単なる他人だし、風邪や病気の時に頼れるのは医者だ。事件に巻き込まれた時に頼れるのは探偵とか警察である。
そう、人生において友達など必要ないのだ。
「――入学おめでとう。クラス担任の近衛咲良だ」
季節は四月上旬。
俺、中館颯太は姫華学園高校に入学した。
市街地から外れた場所に建てられているので通学は若干不便だが、他県からも多くの生徒が集う名門校だ。
十六歳の誕生日を迎えた日が入学式という偶然に若干の運命めいたものを感じていた。今後の人生が明るいものになると信じて疑わなかった。
「学園生活における注意点を説明する。しっかり聞いておくように」
俺にとって姫華学園は目標の一つだ。
しかし、ここはあくまでも最終的な目標を達成するための通過点でしかない。さほど真剣に聞く必要もないだろう。
先生の声を聞き流しながら、この学園にたどり着くまでの人生を頭に浮かべる。
順風満帆だった子供時代。
会社経営をしていた父がいて、美人の母がいて、生意気だけど可愛い妹がいた。友達にも恵まれ、周りにはいつも幼馴染達がいた。親友であり、悪友であり、大切な仲間であった彼等との日々は輝いていた。
だが、幸せな生活は長く続かなかった。
父の事業失敗がすべての始まりだった。あっという間に生活は困窮し、借金取りに恐怖する日々が始まった。
転落を痛感しながら生活していたある日、幼馴染達から呼び出されて一方的に絶縁された。理由は聞けなかったが、切り出されたタイミングで理解した。あいつ等が今まで関係を続けていたのは俺が社長の息子だったからだと。
その数日後、両親は妹を連れて姿を消した。
さすがにあの時は頭が真っ白になった。家にあった荷物はすべて無くなっており、残っていたのは荷造りの途中で落としたと思われる指輪だけ。
しばし呆然自失状態だったが、我を取り戻した俺は田舎で暮らしている母方の祖父母に連絡して助けを求めた。
様々な話し合いを経て、祖父母の養子となった。
祖父母の家は裕福ではなかったが、とても可愛がってくれた。俺が人の道を踏み外さなかったのは間違いなくあの人達のおかげだ。あのままだったら友達だけでなく家族もクソだと結論付けたに違いない。
新天地でカムバックした俺は人生の目標を掲げた。
――勝ち組になってやる。
大金持ちになり、可愛くてスタイル抜群の女性と結婚する。俺を見捨てやがった両親と幼馴染達を見返してやる。
目標を掲げ、死ぬ気で勉強した。
努力は実った。数々の著名人を輩出している伝統ある姫華学園の入試で成績上位者となり、学費免除の特待生に選ばれたのだ。
そう、俺は夢を叶えるための第一歩を踏み出したのだ。
ここで歩みを止めるわけにはいかない。卒業後は一流大学に進学し、一流企業に就職して金持ちになる。
華麗なる人生の逆転劇はここから始まる。
「注意事項は以上だ。午後は入寮式が行われる。入寮するものは時間に注意するように。通いの生徒は帰宅となる」
回想していたら話が終わった。
全く聞いていなかったが、どうせ大した話はしていないだろう。
今後の方針は変わらない。ここでまじめに勉強して、将来のためにもいい成績で卒業する。ここでの生活は単なる通過点に過ぎない。
「君達がこの魔法学園で立派な魔法使いに成長することを願っている」
……えっ?
魔法学園で立派な魔法使いに成長することを願っている?
不意に放たれた言葉の意味が理解できず、俺はしばしフリーズした。