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47.忘れていた準備委員

「ねえ、ねえ、静香ちゃん。手を繋ぐのってそんなに難しい事?」


都は窓辺に頬杖を付いて教室から外を見た。

そこからは、まだ登校してくる生徒たちが見える。

その中には仲良く手を繋いでいるカップルもいる。


「和人君、手を繋いでくれないの・・・」


都は羨ましそうにその景色を見つめながら言った。


「へえ、小学校の時は毎日手を繋いで登校していたのにねぇ」


静香は興味無さそうに、手鏡を覗き込み、前髪を直している。


「そうなの・・・。小学校の時までは手を繋いでくれたのに・・・」


「まあ、手を繋いでいるって言うより、都が無理やり引っ張り回していた感じだったけどね」


「いいなあ・・・、あのカップルたち・・・」


都は外の景色を眺めながら溜息を付いた。





ホームルームも終わり、下校時刻になると、都は登校のリベンジを果たすべく、気合を入れて下駄箱に向かおうとした。


しかし、静香に首根っこを掴まれた。


「どこ行くの? 都」


「え? またねって言ったじゃない。 何?」


都は不思議そうに静香に振り向くと、その横には体育祭準備委員の田中が立っていた。


「神津さん。今日、準備委員の集まりだよ・・・」


田中はさっさと帰ろうとする都を驚いた眼で見ている。


「え? 準備委員って?」


「だから、体育祭に準備委員だってば。都、自分で立候補したのよ? 田中君も困ってるでしょ?」


ポカンとした顔をしている都に、静香は呆れたように言った。


そうだった・・・。準備委員・・・。

そんなものはすっかり忘れていた。

自分の人生を左右するほどのビッグイベントを挟んだおかげで、そんなものの存在自体忘れていた。


(・・・何で立候補しちゃったんだろう・・・)


せっかく、久々に和人君と帰れるところだったのに。

しかも『彼女』として。


「リベンジは明日の朝、頑張りなさい。じゃあね。田中君も、また明日」


静香は情けなさそうな顔をしている都の頭をポンポンっと叩くと、困惑気味の田中に手を振って教室を出て行ってしまった。


「神津さん・・・。行ける?」


田中は何だか申し訳なさそうに、都を見ている。

その顔に都は居たたまれなくなった。


「・・・うん。ごめんなさい。田中君・・・。場所どこだっけ?」


「多目的ルームだよ!」


素直に謝り、集まりに参加する意思を示した都に、田中は気を取り直したようだ。


「じゃあ、行こう!」


ニッコリと笑うとご機嫌に教室を出た。

都はガックリと肩を落とし、スゴスゴ後を付いて行った。


先に教室を出た静香は、振り向いて、都と田中が多目的ルームに向かって行くのを見届けると、昇降口に急いだ。


普通科寄りとも付かず、特進科寄りとも付かない微妙な位置に、少し不安そうに立っている和人を発見し、スタスタと近寄っていった。


「お疲れ、和人君!」


「え? あ、佐々木さん・・・」


和人は突然声を掛けられ、ビクッと体が震えたが、相手が静香だと分かり、ホッとしたようだ。


「すぐに都から連絡があると思うけど、あの子、体育祭の準備委員なの。今日集まりがあってそっちに行ってるわ」


「え、あ、そうなんだ」


そこに、和人のスマートフォンが震えた。

急いで開いてみると、号泣する動物のスタンプがどんどん連投されてくる。


「ね?」


「・・・うん。本当だ」


和人はスマートフォンを覗きながら頷いた。


「ところで、都から聞いたけど、今回はおめでとう」


「え?」


静香の言葉に和人は飛び上がった。

そして、顔を上げて静香を見たが、見る見る顔が熱くなり、慌てて顔を背けた。


「正直、傍から見たら、降格なのか昇格なのか分からないけど、本人は昇格と思ってるみたいよ」


「う、うん・・・」


和人はモジモジしながら俯いた。

静香は、腰に手を当ててはあ~と溜息を付くと、


「ま、今回は、私も和人君の存在の大きさを思い知ったわ・・・。ってことで」


静香はいきなりガシッと和人の肩を組んだ。


「え?! なっ! ちょ、ちょっとっ」


慌てる和人の首に腕を回し、軽いヘッドロック状態を取ると、


「頼むから、もう都を野放しにしないでね。和人君の手を離れると、私が倍どころか3倍くらい大変になることが分かったの」


そうにっこりと笑った。


「さ、佐々木さん、ちょっと、く、苦しい・・・」


「あなた達の茶番に付き合わされた埋め合わせは、今度しっかりしてもらうわよ」


「わ、わかりました・・・」


「じゃ、都をよろしくね」


「は、い・・・」


和人の返事を聞くと、静香はパッと手を放した。

ケホケホと咳き込みながら喉を摩る和人の肩をポンポン叩くと、


「じゃあ、またね。和人君」


手を振って、颯爽と去っていった。


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