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39.一番上に

ほとんど人のいなくなった特進科の多目的ホールで、和人は貼り出された成績表を見上げていた。


『3番  津田 和人』


大きな字で書かれている。

しかし、和人は見ているのは自分の名前ではなかった。

自分より二つ上・・・。


『1番  高田 翔』


前回も高田は1番だった。

正直、その時は高田のことなど意識していなかった。

外見も良く、ムードメーカーな上に成績もトップなんて、世の中にはすごい人もいるもんだ程度にしか思っていなかったのだ。


しかし、今は心に霧のような靄がかかる。

素直に賛辞を贈る気持ちにならない。


和人は、今回のテストで1番を狙っていた。

都の対策ノートの作成で自分の勉強時間が大幅に削られたが、それはまったく言い訳にならない。

なぜなら、明確に1番を意識したのは、都にノートを渡した後だからだ。

そう、都との『勝負』を決めた後・・・。


(悔しいな・・・)


和人は初めてそんな感情を抱いた。

今までだったら、ただ上位に身を置ければそれでよかった。

稀に1番を取れる時もある。もちろん、その時は嬉しいが、トップに執着は無かった。

次のテストで2番、3番に落ちても、また次回頑張ればいいと思うだけだった。


しかし、今回、初めて1番になりたいと思ったのだ。

誰よりも上に、自分の上には一人もいないトップに。


すべて自分より優れている高田よりも上に・・・。


和人は成績表を見上げながら、キュッと拳を握った。


「でも、負けちゃったな・・・」


和人は小さく呟いた。

だが、その顔は落胆していなかった。

新たに何か決心したような、力強い目をして成績表を見つめていた。





「都ちゃん! いつまで朝ご飯に時間を掛けているの! 遅刻しちゃうわよ!」


翌朝、テーブルにだらしなく肘をつきながら、ダラダラと朝食を食べている都に、母親はイライラしたように説教をした。


「は~い・・・」


返事はするものの、相変わらずだらしない態度に母親の苛立ちが募る。


「都ちゃん! これから髪型だって整えるんでしょ? 時間が無いわよ!」


「は~~い・・・」


「そんなひどい格好で学校に行くなんて、ママは嫌よ!」


「は~~~い・・・」


「シャキッとなさい! そんなにだらしないと和人君に嫌われちゃうわよ!」


「・・・!」


母親はハッとして、思わず両手で口を塞いだ。

都は母親の方に顔を向け、顔を歪めた。


「う・・・、ひどい、ママ・・・」


「え、えっと・・・、ごめんなさい、ママったら、つい。ホホホ・・・」


慌てて笑って誤魔化すが、都は苦み潰した顔で母親を睨んでいる。


「もうっ、都ちゃん! そんな顔しないのっ。可愛くないわ!」


「もう、都、可愛く無くたっていいんだもん! 和人君の許嫁じゃないんなら、どうだっていいんだもん!」


都はプイっと顔を背けた。

母親は都の傍に来て、顔を両手で優しく包んだと思ったら、むにゅっと力を込めて挟んだ。


「いいえ! ダメよ、そんなんじゃ! だらしなくしていたら、もっと和人君の気持ちが離れちゃうわよ」


「う~~、れも~~、都、負けちゃったんらもん~~」


都はじわりと涙を浮かべ、母親を睨んだ。

だが、母親は都の柔らかい頬をむにゅむにゅ挟みながら、ニコッと微笑んだ。


「都ちゃん。そんな大事な勝負が1回で終わっていいものなのかしら?」


「!」


「それとも、1回の負けですべてを諦めるの?」


「!!」


「都ちゃんの想いってそんな程度だったの?」


「!!!」


「さ、髪を綺麗にして身なりを整えて、シャンとして学校に行きなさい」


「はーい!」


いとも簡単に母親の口車に乗せられ、都の涙はぱあっと乾いてしまった。

飛び跳ねるように立ち上がると、急いで身支度しに、化粧台へ走って行った。





「どう? ママ?」


都は玄関にある大きな鏡の前で、ブレザーの襟をキュッと正しながら、鏡の前に立った。

今日の髪形はツインテール。いつものナチュラルメイクも可愛らしく決まっている。


「いいわ! 都ちゃん、可愛い!」


母親はグッと親指を立てた。

都は母親に向かってほほ笑んだ。

そして、もう一度鏡に向き直ると、映っている自分に向かって指を差した。


「そうよ! たとえ『許嫁』は止めたって、『好き』なことはまだ止めないんだから!」


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