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35.勝負!

「・・・許嫁辞めたいって言ったくせに、何で都にこんなことするの?」


都はまだ肩で息をしながら和人に尋ねた。

和人は目を丸めたまま、答えない。


「ねえ! どうして?!」


許嫁を辞めたいと思っている人が、どうしてここまでしてくれる?

自分の勉強だってあるのに、まったく関係のない人の世話をここまでする?

ちゃんと、他に理由があるでしょう!


「それは・・・、もう、許嫁じゃないし、一緒に勉強することはないから・・・。でも、いきなり一人でテストは大変だろうと思って・・・」


どうしてそんな苦しい言い訳をするの?

本当に嫌なら、いきなりだって手離せるはず!


都はじっと和人を見つめた。

和人の目の下には暗がりでも分かるほどに、はっきりと隈ができている。

都のノートを作るために、ほとんど寝てないのは明らかだ。


そこまでしてくれるのに、なぜ、あなたは素直にならないの?

私に伸ばした手を途中で下ろすのはなぜ?

どうしてそのまま私の手を取らないの?


都は大きく深呼吸した。

そして人差し指で和人を指した。


「和人君! 都と勝負しよう!」





「しょ、勝負・・・?」


和人は目を白黒させて都を見た。


「そう! 勝負!」


都はビシッと指差したままだ。

そして和人に向かって叫んだ。


「今回のテストで、都一人で頑張って200番以内に入ったら、都の願いを一つ叶えて!」


「・・・200番?」


「そう!」


「・・・普通科コース350人中の?」


「そう!」


「・・・都ちゃん、前回、160番以内だったよね・・・? 目標下がってない?」


鼻息荒く宣言している都の前で、和人はポリポリと頬を掻いた。


「だって、あれは和人君と勉強したからよ! 今回は都一人で戦うのよ?! 本当なら250番って言いたいところだけど、これがあるからハードル上げたの!」


そう言って和人からもらった紙袋を掲げた。


「確かにいきなり一人は大変だもんね! だから、これはちゃんと使わせてもらう!」


「・・・じゃあ、せめて、半分以内の175番以内とか・・・」


「絶対に不可能なことじゃ、勝負にもならないでしょっ!?」


「・・・」


「それからもう一つ・・・」


都はもう一度、ビシッを指差した


「和人君が、もし3番までに入れなかったら、罰として都の言うことを一つ聞くこと!」


「え・・・? 罰・・・?」


「そう!」


都は紙袋を抱きかかえ、フンっと顎を上げた。


「だって、和人君、いつも3番以内じゃない。だから、4番以下になったら罰が当然でしょう?」


「・・・」


「1番取ったっておかしくないんだから、そんな人に3番以内に入ったからってご褒美なんて変だし」


「・・・ちょっと、なんかおかしい気が・・・」


「何が?」


「いろいろと・・・」


「そんなことないわ!」


都はキッと和人を見据えた。


「とにかく、勝負よ! 都が200番以内に入ったら願いを一つ叶えること。そして、和人君が4位以下になったら都の言うことを一つ聞くこと」


「二つあるんだ・・・」


「そう!」


若干呆れ顔の和人に、都は大きく頷いた。


「もちろん、勝負だから都が負けたら、和人君の言うことを聞くわ」


「え・・・?」


「200番以下だった場合は、都が和人君の願いを聞く!」


「・・・僕の願い・・・」


和人は呟いた。


(僕の願い・・・)


目の前の都を見た。

都はしっかりと和人を見据えて立っている。その目は決して揺るがない。

めちゃくちゃな要件を提示しているのに、堂々した態度のせいで返って清々しい。

真剣な都の顔に、和人の心臓がトクントクンと音を立て始めた。


「もし、都が200番に入れなかったら、和人君の言う通り、許嫁やめる」


「・・・え・・・?」


和人は急に手先が冷たくなる感覚を覚えた。

それと同時に、音を立て始めた心臓が静かになっていく。


「じゃあね! おやすみ!」


都はくるっと向きを変えると、走って行ってしまった。

慌てて門扉まで駆け寄ったが、都の姿は角を曲がって見えなくなっていた。


(僕の願い・・・)


和人は門扉を握り締めて、暫く立ち尽くしていた。


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