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34.紙袋の中身

今日も勉強が終わった時には、和人の姿はなかった。

昨日と同じく二人を引き留めようとする高田を残して、都は足取りも重く家に向かった。


家の門が見えた時、都は足を止めた。


「何? あれ・・・」


門の端に大きな紙袋が置いてあった。


「え・・・、嫌だ・・・。怖いんだけど・・・」


都はカバンからスマートフォン取り出し、その不審物に恐る恐る近寄った。

変な物ならすぐ写真に撮って警察に届けよう。

怖いからとりあえず母親を呼ぼう。


そう思いながら紙袋に近寄ると、そこにメモが貼ってあった。


「え・・・?」


都は息を呑んだ。


この字! 


都は思わず紙袋に飛び付いた。

そしてそのメモを勢いよく剥がした。


『都ちゃんへ。  津田和人』


都はすぐに紙袋の中を覗き込んだ。

そこには幾つのも付箋が貼ってある数冊のノートや問題集が入っていた。


都は一冊のノートを取り出した。

震える手でそれを広げた。


教科書や参考書のコピーがスクラップされ、綺麗に貼り付けられており、そこに丁寧に解説が書き込まれている。

重要箇所や絶対テストに出るであろうという箇所にはしっかりとマーキングされている。

急いで作ったのか、いつもの綺麗な字が、乱暴に走り書きになっているところが目立つ。


問題集の表紙には、


『〇が付いている問題は、絶対にやること』


とメモが掛かれた付箋が貼ってあった。


「どうして・・・?」


普通科と特進科とでは、当然テスト内容は違う。

それどころか、普段使っている教科書や資料集も違うのだ。


わざわざ、誰かから普通科の教科書を借りたのか?

その上、普通科のテスト範囲を全教科聞いたのか?

短い時間で、ここまで手の込んだ対策ノートを作り上げてくれたのか?


「都のために・・・?」


都は問題集と丁寧に紙袋にしまうと、それをギュッと抱きしめた。

そして、気が付くと走り出していた。


都は紙袋を大事に抱え、ひたすら走った。

何度も転びそうになっても、人にぶつかりそうになっても、足を止めなかった。

だんだん息が切れ、わき腹が痛くなり、どんどんスピードが落ちる。

それでも走るのを止めなかった。


いや、止まることが出来ないのだ。

気持ちが走り続けている。


(早く、和人君に会いたい!)


その思いが、どんなに苦しくても都の足を止めてくれなかった。





和人が家のトイレから出たところで、インターホンが鳴った。

モニターは居間にあるので、ここからは誰だか分からない。

居間に戻るより玄関の方が近い。


「はーい」


和人は返事をすると、靴を履いて玄関の扉を開けた。


「え・・・!」


目の前の光景に息が止まりそうになった。


門の前には、ゼーゼーと肩で息をしながら、やっと立っている都がいた。


「み、都ちゃん・・・」


「・・・和人君・・・。これ・・・、どういうこと・・・?」


都は息を切らせながら、抱えていた紙袋を和人に見せた。


「・・・えっと・・・、それは・・・」


和人はしどろもどろになった。

良い言い訳が見つからない。

あんな風に玄関の前に置きっぱなしにしたのは良くないと思っていた。

でも、自分から距離を取った手前、直接渡す勇気が無かったのだ。

しかし、こんなにもすぐに問い詰められることになろうとは・・・。


「・・・許嫁辞めたいって言ったくせに、何で都にこんなことするの?」


「・・・!」


「ねえ! どうして?!」


「えっと・・・」


都の勢いに圧され、言葉に詰まり、思わず目をそらした。


「そ、それは・・・、もう、許嫁じゃないし、一緒に勉強することはないから・・・。でも、いきなり一人でテストは大変だろうと思って・・・」


和人は俯いて、苦しい言い訳をした。


「もしかして、都、見くびられてる?」


「え? そんな! 違うよ!」


和人は慌てて顔を上げて否定した。

都はじっと和人を見ていた。その目は和人の目から視線を逸らさない。

すべてを見透かされるようで、和人は顔が熱くなってくるのが分かり、再び目を逸らした。


都はスーッと息を吸うと、同じくらい時間をかけてゆっくり吐いた。


そして、ビシッ!と人差し指を和人に向けた。


「和人君! 都と勝負しよう!」


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― 新着の感想 ―
[一言] これはお互いきっちり話し合うべきですね… 男の子は利用されてるだけだし 女の子は好きなことを免罪符に色々やらかしてるし
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