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19.暗くなった空

都が病院を出た時は、もう暗くなっていた。

和人の祖父がお喋りだったことを忘れていた。


今回の入院について、腹痛の話から始まって、救急車騒ぎで病院に運ばれ、緊急手術に至ったことを、武勇伝のように自分語りをした。

都はそれに大人しくお付き合いした。


その途中に祖母が、


「もうね、私も動転しちゃってね。入院先が娘の病院じゃないし、つい和人に頼っちゃって。和人がさっさと入院手続きを済ませてくれて助かったのよ」


そう和人の話を入れてくる。


「わあ! さすが、和人君!」


和人の事を褒める祖母を見て、都も一緒に称賛する。

気が付いたら、一緒にお喋りを楽しんでいた。


病院の前で暗くなった空を見上げ、想像以上に時が過ぎていることに驚いてしまった。


(和人君、まだ図書室にいるかな・・・?)


都はポケットからスマートフォンを取り出すと、メッセージを確認してみた。

昨日、和人に送ったメッセージは未読のままだ。


今までの祖父母との楽しい時間から、途端に、和人に避けられている現実に引き戻された。


都の目に薄っすらと涙が浮かんできた。

今どこにいるのかと文字を打ってみるが、送信ボタンを押せなかった。

一文字一文字ゆっくり削除で消すと、スマホをポケットにしまった。


そして、腕で涙を拭いて、病院を後にした。





和人は顔を上げて外を見た。


窓の外はもうだいぶ暗くなっていた。

未練がましく、隅の一人用の席を見る。都の特等席は空いたままだ。

隣の高田は帰り支度を始めていた。


一瞬目が合ったが、高田はすぐに目を逸らし、さっさと図書室から出て行ってしまった。

和人は無言で高田を見送った。


高田はここで都を待っていたのだろう。

一緒に帰るつもりだったのだろうか?

告白すると言っていた。今日、告白するつもりだったのかもしれない。


そう思うと、今日、都が来なくて良かったと思わずにはいられない。

告白されてしまったら、都との関係は本当に終わってしまう・・・。


そう思う一方で、来てくれなかったという失望感が和人を襲った。


(何を考えてるんだ、僕は・・・)


和人は自分の額をベシベシ叩いた。

未練がましくて、ウジウジしている自分が嫌になる。


図書室を出る前に、もう一度全体を見回した。

自分が当番の時に、都のいない図書室の風景は見慣れないものだ。

でも、この風景に見慣れないといけない。


『和人君、お疲れ様! さあ、帰ろう!』


そうやって、図書室の出入口で迎えてくれる都はもういないんだ。


和人は溜息を付いて部屋の電気を消すと、図書室を後にした。


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