異世界観光ツアーガイド
本作は一話完結のショートショートですが、
『異世界転生課』
https://ncode.syosetu.com/n3981hx/
と世界観を共有しているので、そちらから読んだほうが分かりやすいかもしれません。
えー、みなさん聞こえますでしょうか?
聞こえた方は手を、ああ、聞こえてますね。
良かったです。
改めましてこんにちわ。
わたくし、本日の異世界観光ツアーの案内をさせていただきます、鳥栖鍛造と申します。
はい、トリスです。はい、はい、こちらこそよろしくお願いします。
それではみなさん早速ですけどね、お手元の寄生生物を頭から被ってください。
そうぐぐっと。
そうそう、その蟹みたいなやつです。
え?
いやいや危険じゃあありませんよ。
お客さん初めてですか?お若いですもんね。
えーみなさんご存知のように私たち人間は高次元宇宙を知覚できないんですね。だからこの子の力を借りる必要があるんです。
この子はマリン器官というのを持ってましてね、まあこれはちゃんと話すととても長くなってしまうんですけど、簡単に言えば並行世界、つまり異世界を見ることができるわけです。それをこの子の体内に注入された超小型の意識変換共生体が皆さんにも見える形にしてくれる、そういう仕組みになっております。
あ、そうそうそんな感じです。
お兄さんはもうちょっと深く被ってくださいね。
いいですか?
いいですね?
では皆さん目を閉じてください。行きますよ。
3、2、1。
....
はい、では目をあけてください。
どうですか?足元に草原が見えますか?
見える。
お兄さんも見えてますか?
はいオッケーです。
こちらが本日の目玉、弊社の所有する異世界の中でも一番人気の剣と魔法の世界になります。
文明レベルはDですけどね、汚染されてない原風景と不思議な生態系が好評でおかげさまで昨年のイセナビ総合ランキングでは3位を獲得しました。
ええ、素晴らしい眺めでしょ?
それでは右手をご覧ください。
はい、こちらがハルボルン城です。パンフレットで見た? ありがとうございます。そう、この異世界のシンボルマークです。
写真? ええ、いいですよ。どうぞどうぞ。
そちらのご夫婦、ええあなた方です。お撮りしましょうか?
はいはい、ではいきます。
はい、チート!
えーみなさんが一通り撮り終わりましたら、異世界の人々の生活をお見せしたいと思うんですけど。
え、城下町で火の手が上がっている?
本当ですね。もうちょっと近づいて見ましょうか。
皆さん遅れずについてきてくださいね。
これはオークですね。
オークの大群が町を襲撃しています。衛兵がやられちゃってますね。こんなのが見られるなんてみなさん今日は運がいいですよ。
助ける?
とんでもない。
お兄さんアーサー法って聞いたことありませんか? 異世界に直接介入したら営業停止程度じゃ済まないですよ。わたしもお兄さんも豚箱入りだ、わはは。
おっと、誰かがオークと戦ってるようですね。たぶん勇者ですね。
やっぱりそうだ、こういうときのために弊社が以前に転生させたんです。ほら見てください、勇者のただのファイアーボールLv.999がオークたちを消し炭にしていきますよ。
そうそう、この勇者もパンフレットに載ってますよ。『いつまで経っても初期魔法しか使えない雑魚と言われパーティを追放された俺が初期魔法をひたすら鍛え上げたらトンデモないことになった』そう、その方です。
ほら、そこのボクも応援してあげて?
ゆうしゃさんがんばれーって。そうそう、がんばれーって。
もうあらかた片付いちゃいましたね。
いや、みなさん本当に今日はラッキーですよ、勇者の活躍なんてめったに見れませんからね。私だってこの仕事長いですけどまだ3、4回くらいしか経験ないですからね。
え、本当ですよ。こればかりは運ですからね。
ん? どうしたのボク?
え?ドラゴンだって?
あら、本当だ、本物のドラゴンですよ。ほらあそこ、皆さんシャッターチャンスですよ。ほら。
あ、町に降りちゃった。
あ。
勇者、食べられちゃいましたね。
あーあ、ボク泣いちゃったの?
大丈夫だよ、おじさんたちがまた強い強い転生者を送り込むからね。
え、損害ですか?
そりゃあ大変ですよ、転生一回でみなさんが一年以上暮らせるくらいのお金が掛かりますからね。
でも安心してください、こういうときのためにちゃんと高い保険に入ってますから。わはは。
町が燃えちゃってますけど、もう予定のお時間なので、みなさん気を取り直して次の異世界に行きましょうか。
次も面白いですよ? なんと人々が光る板の前で仕事する不思議な世界です。
想像が付かないですか? 見たらわかりますよ、本当に不思議なんですから。
あ、寄生生物は外さなくていいですよ。
そうそう、そのままで大丈夫です。無理して外すと脳捻転になりますからね。くれぐれも気をつけてください。わはは。
それでは行きますよ。
ボクも大丈夫かな?
はい、ではまた目を閉じてください。
行きますよ、3、2、1。