第4話
相変わらず趣味が悪い扉だなぁ。いっそ、破壊して中に入ってやろうか。もし、そうしたら、めちゃくちゃ驚くだろうな。
その驚いた顔を想像するだけで、笑みがこぼれそうになる。が、後で死ぬほど怒られるてしまうことも予想できる。
「・・・やめた」
私は何とか思いとどまり、扉を優しくノックした。
「入れ」
「失礼します」
部屋に入ると、ガラの悪いおっさんが偉そうに部屋の中央にある席から私を睨んだ。
「馬鹿が。名を名乗らんか」
「呼んだのはそっち。まず、労いの言葉を送るのが先じゃない?」
このガラの悪いおっさんは私の恩師であり。叔父である。母と父がなくなった際に、色々と窺知が世話になり、頭が上がらない存在である。尚、私とは犬猿の仲と言っていいほどに仲が悪い。
「それで、どの男と結婚する事にしたんだ?」
「窺知に余計な事を吹き込まないでよ」
「・・・窺知の方から私に頼んで来たんだぞ。お前が不甲斐ないから弟の窺知はとても苦労している。全く、情けないとはありゃしないな。窺知なら・・・」
延々と窺知の話を続ける恩師。
私だって、窺知が優秀な弟だと自負しているがこの褒めっぷりは異常である。
昔から恩師は窺知の事になると、ただの孫に激アマなジジィになるのだ。
「いい加減本題に入って下さい。会長」
「・・・?!」
一人しかいないと思っていたら、恩師の後ろから女の人が現れた。いや、正確には元々いたのだが、完全に気配を遮断していたようで、発言して初めて認識し、現れた様に感じたのだろう。
「ご無沙汰しております。先輩」
「・・・ひ、久しぶり」
ちょっぴり片言なのはいつもの事ある。
「秘書には敬語を使うのか?」
「それは敬意を払わないといけない方には敬意を払いますよ。私は」
恩師とバチバチと睨み合っていると。
「会長。いい加減にしてください。この後の予定が詰まっているんですよ。・・・ま、麻衣もいい加減にしなさい!」
先輩に怒られてしまった。
「ふぅ。お前と話すと疲れる」
「こっちもだよ!」と思ったがこれ以上、先輩に迷惑はかけれないので内心に留めた。
「実はな。あるヒーローが暴走して、許可なしで怪人を殺したんだ」
「・・・ヒーローなら問題は特にないと思うんだけど」
ヒーローなら問題ない。これはヒーローには怪人殺害権がある。ほとんどの怪人には人権がないが、極一部に例外が存在する。その例外に対しても効力を発揮するのが怪人殺害権なのだ。つまり、ヒーローなら怪人を殺害しても罪に問われることはない。
「殺しが行われた場所が悪かった。怪人収容所内で怪人を殺したんだ」
なるほど。それは問題になる。
怪人収容所。文字通りに怪人を収容している施設であり、主に人を殺したくないと自ら入る怪人たちの場所である。そんな所で殺しが行われてしまったら、いくらヒーローは怪人を殺害しても罪に問われないとはいえ、倫理の問題になる。
「問題が発生したのは分かった。それで、私を呼んだ理由はなに?」
「ある作戦に参加して欲しい。結果として、今回の怪人収容所で怪人を殺したという情報が怪人平等会にまで知れ渡ってしまったのだ。そして、大きな動きを起こそうとしているのが確認され、この事態を上は危険視し、怪人平等会を悪の組織と発表する事になった。その発表するタイミングで、大規模先制攻撃を仕掛ける。お前には先陣を切って戦ってもらうつもりだ」
・・・おっと、長い話で今週の土曜日の事を妄想してしまっていた。
「・・・ちゃんと聞いていたのか?」
「聞いてたよ。で、いつ?」
「今週の土曜日だ」
「・・・用事があるから無理」
「作戦会議は明日・・・は?!」
恩師はポカーンと口を開けて呆然としていた。どうやら、私が断るなど思ってもいなかったようである。
「えーと。失礼します」
この場から逃げる様にササッと恩師の部屋を出た。
今週の土曜日は駄目なのである。
何故なら、北の王子さんに会いに行く約束をしている。