第八十四話
「コレが正解の食材…なんだ…」
「これは、パスタでございますか?」
「うん、ナタルのいう通り、パスタなんだが…。
正確には麺だな。
これをゆがいて、このスープに盛り付ける」
つまり、ハヤタの作った料理はラーメンだった。
自身が思ったのと違う料理がでたので、レンは落胆するが、ハヤタは、
「んで、完成にいたるんだけど、さて、ここで聞きたい事があるんだ」
オージを見て聞いてきた。
「こんな麺じゃなくても、似たような食材であれば、この試験は合格だって聞いた。
だけど、爺さん、アンタそれでも不合格にしたヤツがいたよな?」
こうなると周囲も『どういう事だ?』という疑問が声に出るほど浮かんだので、ハヤタは突然、袖をひっぱられた。
「ちょ、ちょ、ちょと、ハヤタ君、キミ、ちょっと…」
「な、なんだ…何ですか?」
さすがにハヤタはリオリを上司と知っていたので、遠慮がちに対応する。
「キミ、わかってるのかね?
あまり、ぶしつけな質問は…控えて…」
「そうなんですが…。
一応、レンも…」
この瞬間、リオリに睨みつけられ、
「いや、レンさんもいるから、大丈夫だと思うんですよ?」
思わずリオリが、レンを見てしまい。
くねくね…。
と、会釈をしたので、
「最近、そういう会釈が流行ってるのかな…」
と、当然、思い出す。
「幹部の試験を受けたオリオって人がいてさ。
その人が出したのが、パスタだったんだ」
「ハヤタ様、それでしたら合格なのでは?」
「ナタルのいう通り、俺も合格だと思った…。
だけど、じいさん…」
リオリが止めようとしたが、
「不合格にしたよな?」
こういう会話は間に合うわけがない。
「ハ、ハヤタ君、それは、それは都合というのもあるのだよ…。
ねえ…」
リオリがくねくねとして、オージを見るが毅然として答えた。
「つまり、お主は不正を疑っておるのか?」
「この騒ぎだって、それが原因だと思うぞ?」
理解を示した上で、オージは答えた。
「安心せい、オリオじゃったか、あんなモン、論外じゃ」
「どうして?」
「ふむ、ハヤタよ、わからんのか?」
その聞き返しに厳しさもあるので、ハヤタは黙ってしまう。
そんな中、オージはハヤタのラーメンを味わって、頷き、話をはじめる。
「のう、ハヤタにレンよ。
料理を作るにおいて、何が大事じゃと思う?」
「ええと、美味いものを作る技術、か?」
このハヤタの答えにオージはあきれてみせる。
「こういう所が、まだまだよのう。
それ以外で、答えてほしいわい…」
叱責されてしまうが、レンは答えた。
「食べる人の気持ちになって、作る事でしょうか?」
それはハヤタも理解できるほどの、模範解答だった。
「あ、だから、面接するんだな。
つまり面談で、落とされたのか?」
「ふむ、次からは自然と答えれるようになってほしいのう。
その課題にあった、技術を持ち合わせるのも、大事じゃが…。
オリオじゃったか、その時の面接において、明らかに人を見下して、立場にふんぞり返っておったからの。
どんなに組織が膨れ上がろうとも、結局、客商売。
ワシはお客の事を考えんで、料理を出そうとする、そんな男に、厨房を任せたいと思わんよ」
「ああ、だったら、俺、間違えていたのか…」
「ほう、どうして?」
「これは一人のために作った料理だからな。
クオウさん達に出す料理で、課題を出さないといけなかったなと思ったんだよ」
するとオージは、感心した様子で答えた。
「ふむ、課題としては、文句はあるまい…」
ハヤタは気まずそうにしていると、メッツァがやってきた。
「これは一体、なんの騒ぎかな?」
「メッツァさん!?」
そんな事を聞かされてなかったので、ハヤタは驚いているが、オージ何となく察したのだろう。
「のう、そこの人。
ハヤタがこれを、お主のために作ったらしくての。
ちと、食べてみんか?」
ようやく事情を察したメッツァが、ラーメンを一口味わう。
「これは凄いね。
前より、大分、美味くなってる」
「お主とて、この課題は、この男を喜ばせるために、作った料理。
課題としては、合格点じゃろうて…。
のう、ハヤタよ。
この男に、どんな料理を作るのか、見せてもらえないかのう?」
メッツァは事情を説明され、納得するようにハヤタに言った。
「じゃあ、注文はいいかな?」
まるで、試験のような雰囲気に周囲は黙る。
「はい、お伺いします」
「あ~、じゃあ…」
ナノマシンで言語に困るが、ハヤタは答えた。
「この料理でよろしいですね?」
そして、自然に聞いてこれたのは、
「サイズは普通でいいですか?」
ハヤタの今までの経験が生きたのだろう。
メッツァの注文を助けるさまを、レンとオージは、腕を組んで眺め…
「キクラゲマシタマダブルノノリノセコクマシで、お願いします」
ハヤタをずっこけさせる。
「そういえば、こういう料理でしたね?」
「僕も試し言ったみたんだけど…。
言えるとは思わなかったよ」
オージは肩をすくめて言う。
「道のりは、遠いようじゃのう…」
そんなやりとりもあり、夜にレンの運転する車にオージは乗っていた
「おじい様、ハヤタ君は、やっぱり凄いのですか?」
「どうして、わかったんじゃ」
「おじい様が、ここまでご執心ですから…」
「あやつは完成されとるから、指導もする事もないだけよ」
レンは運転しながら、気になる事を聞く。
「完成されてるというのは?」
「あやつは料理人にとっての永遠の課題に挑戦出来るから、完成されておるんじゃよ」
「永遠の課題、ですか?」
「レンよ。
お前は母親の料理、全部、作れるか?」
「はい、全部は作れます」
「母親の味付けは、お客に出せるモノかの?」
「それは中には、出せないモノもありますが…」
「お客に出せない母親の料理と、客に出せる料理。
レン、どっちが好きじゃ?」
「私は母親の味付けが好きです」
「賄いの時、まさにハヤタは、その料理を作ったのじゃよ?」
オージはハヤタの味噌汁を思い出して言う。
「…味も文句はなかったが、ハヤタの納得してない顔は今でも覚えておる」
「ですが、ハヤタ君には、ナノマシンで助長されて、最善の味付けが選択されるのでは?」
「その通り、美味しくなるように助長されておるが、ハヤタは照れながら言いおったよ。
『母さんの味くらい、再現出来るようになりたい』
とのう」
それにはレンは、困惑する様子で答えた。
「ですが聞くところによると、ハヤタ君の惑星は滅んだと聞きます」
この言葉の意味合いを、オージは答えた。
「そのとおり、ハヤタの料理はその惑星の土壌があってこそ…。
再現するのは無理に、いや、不可能に近い。
じゃが、そういう挑戦するのが料理人のあるべき姿じゃ…」
その解答にレンは納得した。
「どおりで、ここの地域の売り上げを持ってかれるわけですね…」
「ほう、よほど強敵のようじゃのう、総帥?」
「はい、ですが負けません…」
「うむ…」
そして…
「お二方、ようこそ、いらっしゃいました~」
リオリが出迎えるように、レンとオージは度々、ハヤタの務めている会社、ウルフィ・オ・ファームにやって来るようになった。
「では、本日はここまで、で…」
その商談は、決まって週末に行われ…
「終わったかの?」
「はい…」
二人は向かう場所があった。
「ほう、魚の煮込みと白米を別々に食するか…」
「ハヤタ君の食文化だそうですよ?」
このようにハヤタの作った、鯖の味噌煮込みを食す、料理を堪能する二人の姿が見かけられるようになった。




