第八十二話
「ルミナス・グループの足元には及びませんが、我が社の品質管理部門の味覚担当も連れてきましたので、どうぞお役立てください」
レンはクオウに目を細めるが表情で『すまん』と会釈をする。
彼も予想してなかった事だったのだろう。
当然、この幹部は先頭を譲る気もないのも見ても分かるので、とりあえずスープを提供する。
「うまい、さすがグループの総帥様が作るスープだ」
そして、担当たちも舌つづみをうつ。
「このような非の打ちどころのないスープは、はじめてです。
いや~、
諸君、感謝して味わいたまえ」
おだてにおだて、偉そうに指示を出すので、クオウとレンは顔を見合わせていた。
しかし、位置的な関係でクオウがスープをひとすくい、味わうと顔をしかめた。
「なあ、レンよ。
このスープ、ハヤタの作ったスープより薄くないか?」
素直に、そう聞いてきたので、幹部のリオリは顔面蒼白になった。
「な、何をいってるんだ。
レン様、すみませ~ん」
リオリは慌ててクネクネと取り繕うが、レンは静かに、頷いた。
「ふむ、クオウさん、貴方は…」
幹部らを粛々とさせて、クオウに言った。
「自分の味覚に自信を持っていいですよ」
「えっ?」
これに驚くのはリオリだが、レンは感心する。
「最新機材で調理を行った事が原因なんです。
彼は、このスープを作るのに、四時間以上煮込んでました。
私もそうするべきなのでしょうが、時間もなく短時間で用意するとなると…。
腕によりをかけても、ここまでなのです」
「なるほど、手作業で育てた野菜と、機械任せで作りあげた野菜の違いみたいなモンか…」
「そう想像してもらえれば幸いです」
「おいしいモノを提供するのが、目的じゃないからな。
まあ、良いんじゃないのか?」
クオウは納得する事で、リオリを黙らせ、オオカミ男、全員に聞こえるように話した。
「これはハヤタの作った事のあるスープを真似たモンだ。
俺はそこまで思い出せん。
だが、多分、どこかでアイツが作ったスープなんだ。
みんな、思い出せるヤツがいるなら、言って来い」
そうして昼食では試飲会がはじまると、
「多分、あのスープの事なんじゃないか?」
と話をするのは、ハヤタと同じ年代の若い世代だった。
「おい?」
クオウに呼びつけられるが、その若いオオカミ男は答え難そうにしていた。
「ちょっと、曖昧すぎて…
自信が…」
クオウの威圧感か、自分の弱さか解答に困るが、周囲の『話せ』という空気に結局、押されて話した。
「誰かのために作ってみたというスープだって、言ってたような気がするんスよね…」
「なんだと、そんなんあったか?」
クオウは思い当たる節もないらしいが、
「ああ、そういえば…。
ハヤタが部屋に籠ってやってたヤツじゃね?」
さらに思い出す人も出てくる。
そして、とうとう…
「なあ、確かハヤタと同じ惑星のヤツに振る舞いたいって、作ったスープだったんじゃないか?
ええと、誰だっけな…」
という意見にナタルが反応した。
「メッツァさんの事でしょうか?
確か、ハヤタ様の惑星出身の方でしたよ」
「ああ、そんなヤツいたな?」
「とりあえず連絡してみます?」
そうして、
「あのメッツァ様、少しお時間を…ええ…」
連絡を取るナタルを見ていた、レンにも連絡が入った。
「はい、何でしょうか、おじい様。
ええっ⁉」
「どうした?」
「おじいさまが、近くに来てるようでして…」
どうやらオージが、彼女の車の前にやって来るらしい。