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新たな大地に花束を  作者: 高速左フック
第一章 こんな生活が始まります
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第八話

 ハヤタはその質問に、何となく不快そうに答えた。


 「料理だ」


 「は?」


 「だから、料理だよ」


 書類に記載された、その記入欄を指差した。


 「まず、俺もふざけて、選んだワケじゃ無いというのを、理解してほしい」


 「ハヤタ君…」


 ヒルデの表情は、かつてのクオウの表情に似ていたので、ハヤタは渋い顔をした。


 この惑星では、基本的に頼めば食事はやって来る。


 簡単に言えば、配達員がパック弁当を持ってやって来るという事だ。


 その弁当の内容は、全て、機械制御されており。


 栄養バランス、パターン、その調理も、全部、機械がやっているのだ。



 つまり…。



 この『料理』と言うエキスパ技能は、役に立たないのである。


 「今の状況とか色々前後する事もあるけどさ、変更出来ないかな?」


 「そもそも、どうしてそれを選んだのよ?」


 「とりあえず一人暮らしになるワケだろ?


 それで、まあ、住む星も違うワケだから、食事の事を考えたんだ。


 自炊するにしても、食材がわからない状態だったからな。


 それが理由だ。


 でも、登録した後、クオウさんなり、食事は注文出来ると聞いてさ…」


 ヒルデは何となくだが察して、顔を濁らせた。


 「『知らなかった』のね?」


 さすがにハヤタも頷くには、抵抗があった。


 「まさか昏睡状態だったのを理由に、予定を飛ばしたのがここに来て、仇になるとは思わなかったわ」


 「やっぱり講習って、大事だったって事だ。


 入院期間をどうして、伸ばしてくれなかったんだよ?」


 「仕方ないじゃ無い」


 「でも、ヒルデの判断だって聞いたぞ?」


 「そうね、この原因は確かに私にあるけど…」


 ヒルデは改めて、答えた。


 「貴方なら、大丈夫。


 そう思えたのよ。


 あの瞬間、四十日間を乗り切った貴方なら、貴方達ならね」


 ナタルのことも示していたのだろうが、ハヤタは当然、納得出来ない様子だった。


 「でも、アンタは医者だ。


 そんなの患者、何人か見ているだろ?」


 「確かに職業柄、色んな状況を乗り越えた人たちは見てきたわ。


 でも、貴方は特に…」


 ヒルデの脳裏には、その時の映像が思い浮かんだ。


 入院中のハヤタの事。


 そして、号泣していたナタルを抱き寄せていた事。


 「…綺麗だったのよ」


 つぶやいたおかげで、


 「何、どうした?」


 聞かれて無いのが、幸いだとヒルデは頷いて見せる。


 「とりあえず、エキスパの事だけど、正直な話、おすすめは出来ないわね。


 急な変更や追加は、身体に影響が出るのよ」


 「マジかよ」


 「それにこっちから見ても、貴方はまだ、異星人としての扱いなんだし。


 医者としての意見として、言っておくけど…。


 貴方は数ヶ月前まで入院していた事を、忘れないでほしいわね」


 納得させるのには十分な意見だったので、ハヤタは皿を取り出した。


 「まあ、その辺はクオウさんに聞いたとおりだったから、半ば期待はしてなかったんだけどな」


 鍋のフタを開けると、ハヤタのナノマシンエキスパンジョン『料理』を生かした、調理独特の匂いが部屋一面に漂ってきた。


 「あら、良い匂い…」


 「イモを蒸かして、適当な調味料で味付けしたモノだ。


 食べる?」


 先ほどクオウからもらったイモを調理した料理を、ヒルデの前に差し出した。


 「良いの?」


 「まあ、今までの礼のつもりだ。


 色々、世話になったの、どこかしらに感じていたしな」


 そう言って、ハヤタはもう一皿、盛り付け。


 「ちょっと、クオウさんにもおすそ分けしてくるから、食べてていいよ」


 そう言って、出て行ったハヤタを見て、ヒルデは何となく察した。


 「なるほど、報酬が出るわけね」


 先ほどの現金の入った封筒も、


 食器棚には、一人暮らし以上の食器が一通り並んでいるので、ヒルデは妙な納得をして、その原因である料理を口に運んで一言。


 「あら、おいしい…」


 ハヤタが帰ってくる頃には完食するほどに、


 「あ、もう食べていたのか?」


 「まあね、色々あるでしょうけど、頑張りなさいよ」


 そして、ヒルデは思い出した様に言った。


 「ああ、そうそう、私も、貴方に用があったのよ」


 「用事?」


 ヒルデは周囲を見渡して言った。


 「私、ここに住むから」


 一瞬、間があった。


 「は?」


 それは聞き間違えるほど…。


 「はい…?」


 「あら、承諾?」


 「違う!!」


 そして、そんな学園生活がはじまろうとしていた。


 

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