第七十七話
そこは食洗機に入れる行程の前、軽く水洗いなどをするコーナーだった。
洗う前の食器だから、当然、ソースなりが付いていたが、このソースを…。
「こうやって、出されたソースの味くらい覚えるのだな」
オージは、小指に付けて舐めた。
別の皿をハヤタに差し出すので『やってみろ』というのだろう。
「はあ、失礼します」
ハヤタは手袋の外して、言われた通りに指ですくって舐めたのを見て、オージは聞いてきた。
「どうかね?」
「良いコクがあるソースで、美味いですね」
「衛生都合上、毎回やれとは言わん。
だが、ここに勤めに来たのだから、ソースくらい作れるように、こうやって勉強するのだな」
「そうですか、でも、良いんですか?」
「何がかね?」
「こういうのを盗んじゃいけないって話、有名じゃないですか?」
ハヤタの問いに『なんだ、そんな事か』とオージは言い返す。
「いいか、別にそれを盗めとは言ってはおらん。
そこに至る努力くらいしろと言ってるんだ。
それでキミの方こそ、どうなんだ?」
この辺りで、周囲が異変に気付きだす。
「ナノマシンで、成分くらいわかるのだろう?」
「ええと、魚介類、スーからとった出汁を主成分として、後は隠し味にカリ星の砂糖と、根菜の出汁もありますね?」
「ふん、これだからナノマシン持ちは気に入らん」
オージに厳しさがあるが、彼に別格の指導をしてる事に、これにはオリオだけでなく周囲は当然、困惑する。
「ところでキミは、もう昼は食べたのかね?」
「いえ、まだですが?」
「では、今日のまかないは、ワシが作ってやる。
ここの担当は誰だ?」
オリオが前に出て、名乗り出る前にオージは言った。
「この子を借りるぞ?」
「あ、あの、人員の問題もあるので、そんな事を急に言われましても…」
「キミの持ち場はインターン生で、補っているのか?」
そう言われてしまうとオリオは言い返せなくなっていた。
「では、借りるぞ?」
と、二人して、昼食をとりに行くので、さらなる混乱を招いていた。
「え、なに、なんなの…?」
オリオの問いに、誰も答える事はなく。
そして、その混乱は昼食が終わって、さらに深くなる。
「おじい様がいらっしゃると思って来てみれば、ハヤタ君も来ているとは…」
ルミナス・グループの総帥、レンがやって来て、さらにハヤタと知り合いと来たのだ。
「なんじゃ、二人とも、知っておったのか?」
「まあ、色々ありまして…」
「ハヤタ君、ここにやって来て、スパイにでもやって来たのかな?」
「インターンですよ」
こんな談笑する三人を、見たのだから無理もない。
「なんなんだ、アイツ?」
彼の、その混乱は終業まで続いてしまい。
オリオは改めて、ハヤタの履歴をにらみ付けていた。
「コバヤシ・ハヤタ、何かの御曹司か、それとも上客か?」
そう勘ぐりつけて、提出されたデータを眺めるが、そこに掲載された彼のデータは…。
「…誕生日、惑星、絶滅のため抹消の二級劣等種。
来歴、ウルフィ・オ・ファームの農作物課に在籍。
同年、在学のために週末労働に…」
オリオの『知りたい事は、そこじゃない』とイライラして、ハヤタの履歴の映像を見れば見るが…。
「ナノマシン・エキスパンション、料理…」
何の変哲もない、履歴書である。
「何なんだ、アイツ…」
憎しみがこもっているのも無理もない。
彼にはルミナスグループ、料理人の幹部候補として努力と誇りがあった。
当然、あのオージから、厳しい指導も受けた事もある。
そんな下地から培った、今の地位だった。
だからこそ、見下し、悪態でもあった。
「それなのに…」
彼には、憧れているものもある。
「レン様…」
美貌だけでなく厳しい姿勢、努力と才能を惜しまぬ姿を知っているからこそ。
その憧れた女性が…。
『ふむ、それなら私が、指導しても良いかな?』
嬉々として、明らかに好意を寄せて、ハヤタに話し掛けていたのを思い出し。
「アイツは、ナノマシン頼りなんだぞっ!?
あんなヤツに~!?」
あっという間に、追い抜かれた気分が憎しみに拍車を掛けたのか、机を叩いた。
まあ、ようするに嫉妬である。
数個の物が落ちたので、ようやく冷静になれたがそれを拾う際に、カレンダーが目に止まった。
「そうか、これを利用すれば…」
そして、さらに翌日である。
「おはよう、ハヤタ君!!」
明るい様子のオリオに、ハヤタは引いて見せたのは言うまでもない。




