第七十六話
「オージ会長、自ら、監査が入るんだ」
「会長、自らの監査?」
思わずそのまま返答してしまうが、オリオの表情には緊張感があった。
「ああ、ルミナス・オージ、レン総帥の祖父にあたる人が、会長なんだ。
高齢だが、今でも、こうやって、指導にやって来ている方だ」
ハヤタのいる位置は洗い場である。
作業位置の関係上、調理場と隣接して離れてはいるのだが、そこからでもわかるのは。
「おい、キミ、どうして、その素材を捨てようとする⁉」
「あ、あの処理をし終えてますので…」
「これで、ちゃんと切ったと言うのか?
キミは、その程度で『ちゃんと処理をした』と言いたいのか?」
その人の厳しさである。
「現役を退いたとはいえ、技術は健在な方だ。
レン総帥にも、容赦なく指導されていたのを、見たこともある」
ハヤタはナノマシン越しに、白身魚の処理を眺めると何の問題のないと、
「ふん、ナノマシンが示した通りにか…」
思い終えようとする前に…。
「キミはそうやって、材料を無駄にして良い理由を、ナノマシンに押し付けるつもりか?
それとも、その残った、骨で『おすまし』でも作る予定なのか⁉
このホテルの料理に、そんなメニューがあったか?」
応答するように、オージは指導が飛んできた。
「あのインターン生ですので…」
泣きそうになってる女子のインターン生を、見かねて担当のシェフもそう言って、この場をおさめようとする。
「だから、何だというのだ⁉
この程度では。
これから先、彼女は、客にそんな料理を手配するようになるぞ?」
そう言われて、シェフが何も言い返せなくなるとオージは、インターン生に言う。
「いいか、キミは学校で、ちゃんと技術を学んだのだろう。
その程度の技術しか、持ち合わせていないのか⁉」
緊張感も合わさり、場が静かになるので、オリオが嫌な笑みをハヤタに向けていることに気づいた。
「まあ、この厳しさこそが、ルミナス・グループの技能の高さを維持しているワケでな。
なまじナノマシンを生かしたいなんて、どこかの普通科の考えが甘いとは思わないか?
という事だ」
十分に嫌味をハヤタに塗りたくって、持ち場に戻っていった。
「まあ、挨拶はしっかりして、キミも失礼のないようにな」
この嫌味な性格が、彼の本当の性格なのだろう。
「アイツ、ちゃんと、最初の目的を果たしやがったな」
そして、オージ会長の監査はその日だけで終わらず、次の日に続き。
そのオージ会長がハヤタのいる洗い場にやって来たのは、昼食前になっていた。
「おはようございます‼」
作業中だが、昨日の事もあるので、みんなで言われなくても、一斉に挨拶をするほど、緊張感が走っていた。
「……」
そして、ハヤタが、
『一人、一人、指導をするんだから、まだ距離はあるよな…』
と思いもしてながら、作業に取り掛かっていると…。
「おい、キミ…」
『うわ、さっそく来た…』
そんな言葉を背中に受けて、食器を持って、食洗器に入れるという、姑息な距離を取り方をする。
「キミは、一体、ここで何をやってるんだ?」
『皿洗いですよ』
ふと、そう思いもするのは、その距離からくる余裕からだった。
そして、皿洗いにどんな指導があるのだろうと、疑問に思いもするが、
「聞いてるのかね⁉」
『怖いな~』
しっかりとフタを閉めて、動作を確認していると、ようやくハヤタが気づいた。
というか、気づかされた。
周囲がハヤタではない何かを見て、ハヤタを見ていたのだから…。
「……」
真っすぐにオージが背後から迫って来ている事に気づいていなかった。
『振り向きたくねえ…』
何だろう、この『いる』って、感覚。
カメラもハヤタの顔を、ズームインで振り向くとオージ会長が、腕組みをして立っていた。
「キミは、一体、何をしているのかと、聞いているんだが?」
最悪なタイミングも伴い、その厳しい態度にハヤタは萎縮しながら何とか話した。
「さ、皿洗いです…」
「それは見たらわかる。
私が聞きたいのは、どうしてキミは皿洗いをしているのかと、聞いているんだ?」
するとオリオが、割り込んできた。
「いや~、失礼いたします。
彼もインターン生なので、ございますがっ!!
なにとぞ!!
普通科の生徒で、ございます。
ですので、このような作業しかさせられないので、ございます」
狙っていたのだろう。
オリオの力強い嫌味と、ゴマすりにスキがなかった。
「ふむ、君は普通科のインターンというのか?」
「はあ、専門的な技術がないので、皿洗いになったんだと思います。
ですので、オリオシェフの判断は間違ってないと思いますよ」
それを聞いたオレオは大きく頷くので、オージは肩を竦めて答えた。
「では、そうやって、怠惰に使い終わった食器を、食洗機に入れようとするんじゃない」
オージはハヤタを手招くのをみて、オリオはニタニタとしていた。




