第七十四話
「かしら~」
「なんだ?」
ここはクオウの働いている、ウルフィ・オ・ファーム。
同僚のオオカミ男の呼びかけに、クオウはぶっきらぼうに、
「多分、客です」
顔をしかめる。
「なんだ、その『多分』ってのは、気持ち悪いな」
「いや、かしらの客じゃないと思うんスが、かしらが相手した方が良いと思いまして…」
「どうして
?」
「多分、ハヤタの客ですから…」
「あんだって、なんでわかるんだ?
つか、なんで俺が…。
ああ、そうか…」
クオウは、思い当たる節があった。
今日は、週末。
ハヤタは週末労働のため、出勤しているのだが、この二週間、彼は休暇扱いとなっていた。
「そういえば、ハヤタはインターンって、ヤツだったな?
んで、俺か?」
「はい、ですんで、応接室で待たせてやす」
学校行事なら仕方がないと、来慣れない応接室にクオウは向かう事となったのだが…。
「なんだ?」
慌ただしく課長やら、幹部連中が通り過ぎて、待たせているであろう応接室に入って行ったからである。
応接室はここしかない。
なので、クオウは軽く様子を伺う、
「ようこそ、いらっしゃいました。
ルミナス・レン様。
おっしゃったら、こちらから伺いますのに…」
ハヤタと同じような黒髪が印象的な女性に、独特の猫なで声で挨拶する上昇部に、クオウが虫唾が走るなか、クオウは『これは、ハヤタの客ではないのじゃないか?』と思いもするが、
「いや、ちょっと、ハヤタ君の事で、聞きたいことがあってね」
やっぱりそういう事ではないらしい。
「ちょ、ちょっとお待ちください。
ハヤタ…君ですか?」
「はい、フルネームはコバヤシ・ハヤタ君なんだが…」
「ど、とりあえず、呼んで来ます」
「ああ、ちょっと!?」
慌てて飛び出す重役と、思わぬ対面をするクオウに重役は聞いてきた。
「あっ、キミ、ハヤタ君という従業員を知らんかね?」
「ええと、コバヤシ・ハヤタの事ですかい?
今日、ハヤタは、インターンで来てないぜ?」
「休みだというのかね!?」
苛立ちを見せる、この重役が、オオカミ男じゃないのもあるのか、もともと、この重役が気に入らないのもあり、クオウは何かしら言い返そうとするが、
「あのクオウ様、申し訳ありません」
そう言って制したのは、ナタルだった。
どうやらこの騒がしさ所為で、目立たなくなっていたらしいが、クオウは見知った人を見たので気を許した。
「お、ナタルじゃねえか、一体、どうしたんだよ?」
もう大騒ぎになりそうな状況なのが、ナタルでもわかっていたのか、レンに話をする。
「あの本日はこのレン様が、クオウ様に用事がありまして、お伺いにあがったのです。
最初は、自宅の方に伺ったのですがいなかったので、通り掛った休暇中の同僚の方に『会社の方に行ってみたらどうだ?』という事になりまして…」
「私としても、連絡してアポはとった方が良いと言ったんだけどね。
こんな大騒ぎになってしまって、すまないね」
クオウは実際、職場にアポなしでやって来て、忘れ物を身内が届けてくる事もあるのを見た事もあり。
騒ぎの顛末を何となく理解しながら、レンに聞いた。
「でもよ、何で俺なんだ。
大体、オレは、アンタとは面識もないだろ?」
クオウらしい言い方に、上司は『ぎょっ』として、クオウの作業服を引っ張る。
「ちょ、ちょ、ちょま、クオウ君っ!!」
「なんだよっ!!」
再び、不機嫌になるクオウに、上司は無理やり耳打ちをする。
「良いかね、クオウ君、くれぐれも失礼のないようにしてくれ…。
相手はルミナスグループの総帥なんだよ…」
「だから、何なんだ、それ…。
そのルミナス・グループってのは?」
「キミは夜に、ご飯も食べないのかね?
私たちの食事に届けられる、容器のマークを見たことくらいあるだろう?」
「ああ、弁当のマークのアレかっ!?」
上司の軽いジェスチャー混じりの応答に、クオウはようやく合点がいく。
それが面白かったのか、レンが微笑んで見せるが、クオウはさらに気づいた。
「そういや、ルミナス・グループって…」
慌てて上司が止めようとするが、この状態で止めるのは無理である。
「ハヤタが、インターンに行ってるホテルも、そうじゃなかったか?」
「ええ、私どもの経営しているグランドホテルで、インターン実習生として、預からせてもらっています」
ここまで言うと、クオウは何かしら察して、レンに聞いた。
「もしかして、アイツ、何かやったのか?」
上司たちが真っ青になるのを尻目に…。




