第七十二話
「うん、ユニホーム、貸してくれて、ありがとう。
動きやすいよ」
メッツァはドロスに感謝を伝えて、ハヤタに向き直って言った。
「いいかい、ハヤタ君。
作戦は、簡単だ。
僕がドリブルで切り抜けて、ハヤタ君が、パスに対応してほしい」
シンプルな作戦だが、ハヤタは自信がないのは当然だった。
いつのワールドカップだろうか、映像に出てた。
あのメッツァが、同じグラウンドでサッカーをしようというのだから、この独特な空気にハヤタは緊張してしまう。
その様子を察したのか、メッツァは軽く肩を叩いて話しかけてきた。
「大丈夫、君のマークはココネ君が、担当する事になると思う。
何とか切り返すなりして、振り切って、対応してほしい。
僕もチャンスがあれば、突破して狙うから…。
って、こんなので緊張がほぐれたら、楽な話だよね」
『とにかく、動いて、動いて』とメッツァは明るくテンションを上げていると、試合開始となり、ホイッスルが鳴る。
サッカーとは違う競技ではあるが、最初はメッツァのパスから始まり、それをハヤタが返す。
先ほどの読み通り、ココネがハヤタのマークに付いて、彼のパスコースを塞ぐのをハヤタを見ていると、
「メッツァさん?」
メッツァは、少し空を眺めて止まっていた。
動かないドロスが、静かに近づくのをメッツァは見て、
「大丈夫だよ」
彼が、呟くと。
「あの程度なら、振り切れる」
そこにデイビッド・メッツァはいた。
彼の得意とするのは、フリーキックと…。
「いきなり!?」
その突破力。
切り返しだけで軽々とドロスを振り切って、直接、狙ってきた。
幸いボールはキーパーに弾かれ、ドロスの足元に転がって行く。
その一瞬の出来事に、キーパーだけじゃなく、ココネやドロスも目を見合わせていた。
「うん、まだまだ、身体がなまってるようだね…」
ボールを寄越すようにと、メッツァが態度で示すのは、これが特別なルールだからだった。
「すごい…」
改めて元のポジションに戻る際、ハヤタのマークに付いていたココネがそう答え、見学していたメンバーもざわつき出す。
「おい、次が来る。
油断するな!」
ドロスに至っては、表情から余裕が消えて、ココネに檄が飛ぶ、それだけレベルが高かった。
ただ、余裕がある事と言えば…。
「あ…」
ハヤタだった。
「うおっ」
メッツァのパスにも、走り込んで追いつく…事が出来てないなどの、技術の無さが浮き彫りである。
それは常にやってる人間と、授業程度にサッカーをやる人間の差だった。
「すんません…」
おかげでハヤタは、謝るしかない。
だが、
「いや、もう少しだったね。
惜しかった」
メッツァは笑顔で『構わないよ』という態度を見せる。
「もう少し、後ろで出そうか?」
彼はそんなつもりはないかもしれないが、気を使われてる感がハンパがない。
なので、ハヤタはこう答える。
「いや、追いつきます」
ていうか、そう言うしかない。
そんな状況が、20分ほどだろうか続いていると、
ハヤタは、
「……」
バテた。
「大丈夫かい?」
さすがにタイムとジェスチャーをしたメッツァは、ぶっ倒れたハヤタに声を掛けた。
「ど、どおりで…」
ハヤタは、息を切らせながら答えた。
「フォワード、ディフェンスとか、三つのラインに、区切られてるワケだわ。
こんな走りっぱなし、だと、体力が持たないな」
「別にみんな、そのポジションの役目がなかったら、休んでるワケじゃないんだけどね?」
「そもそも、こちらはボールは友達というわけじゃないので…。
すいません、足を引っ張って…」
ようやく息が整ったハヤタを、引き起こすメッツァは、汗はかいているものの、体力に余裕があるのをみてとれた。
「先に無茶を言ったのは、僕なんだ、気にはしていないよ。
言っておくけど、僕は、どちらかといえば…。
こっち側なんだけど?」
メッツァは、手を合わせて『破~』と構えて見せるので。
「破~」
ハヤタも返して見せて、
「…あああ~」
お互いのせめぎ合いに。
「4倍だ~!!」
メッツァを吹っ飛ばして見せる。
「あのハヤタ様、お二人とも何をやっているのでございましょうか?」
水を持って来たナタルが、そんな質問を投げかけるが、この激闘は、二人にしかわからないだろう。
しかし、やはり恥ずかしくなった。
「と、ところでメッツァさん。
なんで、こんな勝負をするなんて、言ったんですか?」
「え、ああ、うん?」
「いえ、昨日、あんなに断ってたのに、やっぱり、うって変わってるじゃないですか?」
「ああ…」
誤魔化しながら、そう聞いてくるハヤタにメッツァは答えた。




