第七話
「ちっ、ノーマのヤツ、知っててここに送りこんだのね」
ヒルデは身を屈め、悪態を着いていた。
「ヒ、ヒルデ、落ち着けって!!」
「そうだ、落ち着け…」
「貴方を見て、落ち着いていられないでしょ?」
『ハヤタ君』と年上らしく庇いながら、ポケットに手を突っ込むのを見て、クオウは呆れながら答えた。
「おい、強制制御装置を、構えるのは構わないがな。
オレにそんなモンがあまり効かないというのを知らんのか?
出力を強めようなんて考えるなよ、この場合、ハヤタにまで迷惑が掛かるぞ?」
パケットの中身をそう言って指を差して言うのは、ハヤタを庇うためでもあった。
強制制御装置とは、
体内にあるナノマシンを連動させて、対象の相手の身体を痺れさせる。
一種の防犯装置である。
ハヤタにしても、その効果を『味わった事』があるので、ヒルデを必死に止めようとしていた。
「クオウさんには、学費を出してもらってるんだよ」
「あ、貴方が!?」
ヒルデの驚くのを尻目にクオウは答えた。
「心配するな、ハヤタと俺はただの隣人だ」
そして、ハヤタに何やら手渡していた。
「また、イモ?」
「これが俺の担当なんだ、仕方ないだろう」
無愛想にクオウはそう言って、自分の部屋に入っていった。
その様子を見て、ようやくヒルデは平静を取り戻す。
「驚いたわね、あのクオウから、もらい物なんて…」
「結構もらってるぞ。
ていうか、クオウさんって、そこまで危ない人なのか?」
「キミが知らないのも無理は無いけど、やっぱり種族間って、騒ぎくらいは起きるモノなのよ。
その代表格があのクオウ達の種族なのよ」
「ああ、あれの事か…」
その時、ハヤタとヒルデの想像が違っているのは、ヒルデは知るよしも無い。
「暴動を起きる数日前には、その手の集会に必ず参加して、実際、その暴動だって参加してるのよ。
あの種族の顔付きは、あまりにも多いから逮捕も出来ない始末、ナノマシンでも判別出来ないほどよ」
「もしかして『アレ』が効かないのも?」
「その影響はあるのかも…」
そう言って、ヒルデはポケットから、スイッチを取り出して見せた。
「ナノマシン強制制御装置…」
ヒルデは防犯上のためか、いつも持ち歩いているのだろう。
ハヤタは何度か味わった事がある分、緊張感を隠すように自分の部屋のドアを開く、
「……」
が、一旦、ドアを閉めて、
ガラッ!!
ハヤタは問題の隣人の窓を開き、あぐらをかいていたクオウは振り返った。
「なんだ?」
「クオウさん、俺の部屋を食料庫にするつもりか?」
いまいち意味がわからない様子だのクオウだったが、何となく察したのか答えた。
「それは仲間に言えよ」
「カギを掛けたはずなんだけどな?」
「あの程度なら、簡単らしいぞ?」
「ピッキングじゃねえか、犯罪だろ?」
「おいおい、何も盗られてねえだろ?
むしろ、お前のモノは増えてる。
だから、犯罪じゃ無い」
「あのね、何も買ってない人がですよ。
帰って来た、玄関には何も無い。
これが普通だ。
帰って来て、心当たりもないのに、玄関に食材が並んでいるのですよ。
むしろ怖くね?」
クオウは言われて、少し考え、
「……」
勢いよく、窓を閉められた。
「あっ!!」
こうなるとクオウは出てこないのを経験しているので、ハヤタはあきらめて自分の部屋に身体を向けると、
ガラッ
まだ、窓が開いた。
「ついでだ、受け取れ」
そして、窓から封筒を落とした。
返答を待たずして、窓が閉まる。
今度こそ、出てくるつもりはないらしい。
当然、自然な流れで、中身を見る。
「うわ、現金!!」
「ハヤタ君、一体、何したのよ?」
「これこそ、今の問題で…。
説明も必要なんだがな…」
そう言って、窓を見るが、その窓は開くことはないだろう。
「まあ、今は自分の問題を解決しとくよ」
とりあえずヒルデを自分の部屋に招き、本題に入る事にした。
「話ってのはさ、エキスパンジョンの事でさ」
「ナノマシン・エキスパンジョンの事?
あら、あれの事なら、書類に書いてなかった?」
ハヤタは頷きながら、ブレザーをハンガーに掛けながら答えた。
「あれ、変更出来ないのか?」
「出来ないわよ。
そう、書類にも書かれて無かった?」
「じゃあ、追加とか出来ないのか?」
「それも追記で、理由も書かれていたでしょう?」
偶然、テーブルの前にその書類が置かれていたので、ヒルデは確認がてら聞いて来た。
「ナノマシンで、自分の潜在意識の中にある。
得意な能力を引き上げて、この惑星に適応するための技術、技能の取得を助長するのが、
この機能、ナノマシンエキスパンジョンなのよ。
その機能の利用は一回だけ。
スタートラインは平等に、そうじゃないと不平等でしょう?」
あまりにもごもっともな意見に、ハヤタは黙る。
おかげで、ヒルデは自分を呼んだ理由がわかったので、何となく聞いた。
「ハヤタ君、一体、何をエキスパンジョンしたの?」