第六十八話
「頭の悪いヤツらが何かを企むってのは、どっか抜けてるんだろう。
『スラローム対抗戦を利用して、若いモンを懲らしめようとしている』
なんて考えなんざ。
若い連中が、どっからか聞きつけたんだろうな…」
「それで、アンタはどうするつもりだったのよ?」
「どうするって。
俺は、チームキャプテンを務めてるからな。
若いモンの力をみるのもあったから、参加するつもりだった」
「『つもり』と言うと、参加しなかったの?」
「まあ、な…」
そう言って、クオウは若い連中を見ていた。
同じような顔のオオカミ男たちは、ミミミ達には見分けがつかない。
だが、体格が、毛並みがクオウと比べて、一回り小さいのだから『若い』のだろう。
「ある日、俺ん家に来てな。
『スラロームを教えてくれ』って、やって来たんだ」
「その若い人たち全員がですか?」
クオウが頷くと、ナタルやミミミも、このクオウがハヤタの隣人という事は知っているという事もあり、どういう状況か想像はたやすかったが。
「でも、スラロームを教えてって、アンタ達がいつもやっている競技なんだから『教えろ』っていうのは、どういうことなのよ?
喧嘩の仕方でも教えろと、言ってきたの?」
からかい半分に聞こえたが、クオウは怒る事無く、あきれ混じりに答えた。
「あのな、俺らはの中にはな。
体格が良くても、殴り合うのを嫌うヤツもいるんだよ。
こういうヤツも参加するとなってみろ。
殴り合うのは無理なんて、想像できるだろう。
アイツらは、どう取っ組み合ったら、上手く対処、防御出来るか教えてくれ…。
そんな感じで若い連中が、俺に押しかけてきてな」
「受けたの?」
「ああ、受けた」
ミミミは声に出さなかったが、隠しきれない態度をクオウは察して言う。
「意外な反応だと思うか?
あの当時、俺らのチームは、実力の限界を感じていた時期でもあったんだ」
「実力の限界?」
「ハヤタから、どこまで聞いてるか知らんが、まあ、野蛮なスポーツでもルールはある。
そうなると、当然…戦術ってのか?
あのスポーツも、長い年月をやっていると、それが出来上がって必要になってくるんだ…」
どういう事なのかわからない女性陣に対し、説明がてら、クオウは軽くボールを持ったしぐさを見せて、ミスティの前に立って説明をする。
「一対一なら、殴り合っても良い…。
それが野蛮なのはわかる。
だが、その時、ミミミが割り込んで来た場合…。
どうなるか…?」
二人の間に立つと、ミスティは気づいた事を聞いてきた。
「もしかして、手が出せませんの?」
「まあ、色々とルールはあるが、俺は避けるかパスをするかの二択を迫られる。
じゃあ、次、お前らはどうする?」
「ええと、パスを防ぐ?」
「ルールで認められるのなら、私なら、避けられないようにルートを塞ぎますわ」
二人とも意見を言った事で、クオウに静かに言った。
「キャプテンを務めてるとな。
こういうのが見えてくるんだ」
さっき『野蛮』と言っていたクオウの苦悩なのだろうか、それが伝わって来たのはミスティだった。
「でしたら、そう指導するのも、キャプテンの務めでございましょう…」
「どう言う良いんだ?
『一回でも、やってみろ』
『一回やってみたけど、意味がなかった』
『今まで、では、ダメだ』
『だったら、筋肉で全てが解決する』
そんな返しをする、脳みそ筋肉どもには、そんなの通用せんぞ?」
まさか、先ほどの皮肉を返されるとは思いもしなかったが、これがクオウの苦悩でもあるのだろう。
「まあ、当時の若いヤツ等に、そんなの事を知ってたのかは知らん。
だが、オレはハヤタの事で、経験してわかった事があった。
これはチャンスだ…とな」
「なるほどね、それでアンタは…」
「ああ、俺は、若い連中につく事を決めた」
「ここまで来ると、もうネタでございますわね…。
それで指導の方は、どうでしたの?」
「恰好はつかなかった。
『一対一から、二対一にさせるにはどうするか?』
そんな課題の指導なんてした事もなかったし、厳しくもなった、ケガもさせた」
よほど上手くいかなかったのが見て取れた言動に、クオウが答えた。
「そこでやって来たのが、ハヤタだった。
『唐揚げ』の差し入れを持ってきてな」
「と言いますと、そこでの皆様はハヤタ様が、クオウ様の隣人だって知らなかったのでございますか?」
「ナタルのいう通り、知らんかったな…。
でも、事情を聞いたハヤタが、ばっさり言ったよ。
今でも覚えてる。
『こういう組織的な動きは、図解しないと伝わらない』ってな」
「そういえば、ハヤタ様の住んでいた惑星には、そういうスポーツがたくさんあるとお聞きしました」
「だから、手慣れてたのか…。
まあ、ハヤタはノートを取り出して、色々と書き込んでいく内に、俺らが何をやりたいのか、わかりやすくしてくれた。
そして、とうとう、あいつ等は、俺に張り倒す事しか許さなくなっていた」
「け、結構、暴力的ですわね…。
見てないから、言える事なのでございましょうけど…」
「ああ、ポジション、パス、マーク…。
俺らに、この言葉が生まれたのは、あの時からだ」
クオウは視線を外して、若い連中を見ていると、話をしていた。
「そういえば、唐揚げで思い出したけどさ。
俺、焼き肉も好きなんだよな」
「ああ、ハヤタが延長コードを引っ張ってきた」
「そうそう、あれ、結構好きなんだよな」
「マジで?」
そんな会話を耳にしていると、クオウは手を頭に当てていた。
「その焼肉というのは?」
「ハヤタが振舞った料理だな。
前日に迫った時、ハヤタは、それを振舞ったんだ。
士気も上々、奴らはやる気、十分。
そして、ハヤタは…」
「はいはい、彼らのボス的、存在にでもなったの?」
「…警察に捕まった」
……。
よく見ると、クオウは頭を抱えていた。
「えっ、何て?」
「いや…な…。
だから、警察…に、捕まった」
「なんで…?」
「いや、一応、捕歴にはなってないから、捕歴にはな…」
「だから、どうして捕まったのよ?」
「俺らの住んでる所は、外で調理などをする時は、届け出が必要だったんだ」
「まさか、それを知らず、ハヤタ様は…」
「ああ、ナタルのお嬢ちゃんが思うとおりだ。
試合当日、警察がやって来て、連行されてったよ」
「もう、何やってるのよ…」
ミミミも頭を抱えようとするが、クオウは言った。
「それでみんなが気づいたんだ。
ハヤタには、挨拶はするし、会話も出来るが、常識がなってないってな。
そこで学校に通わせようと考えたんだ」
「なるほどね、そこで今に至るってわけね…。
それで、どうなのよ?」
「何が?」
「試合よ、アンタ達の試合」
「ああ、そんな事か、それより昼飯にしよう。
ハヤタの唐揚げは美味いぞ?」
「まあ、そうですの?」
「ね、ねえ、ちょっと待ちなさいって…」
「ハヤタ様は皆さまの昼食の担当でもあるのですね?」
「ああ、後々、独立するように資金集めも、この週末労働でしてるんだ」
「それは、楽しみ…」
そうやって、クオウはミミミから離れていった。
「試合はどうなったのよー‼」




