第六十六話
ハヤタは身を乗り出して、運転席に座ったミスティに話しかける。
「これがアクセルで、これを踏むと前に進むから、ゆっくり踏んでくれ」
この距離にミスティは顔を赤らめるが、車の運転など今までやった事のないのだから、真面目に聞いていた。
「は、はい、これですわね…。
いきますわよ…」
ハヤタの言われた通りに、アクセルを踏んで、コンバインがゆっくりと前に進む。
「進みましたわ、ハヤタ様‼」
「じゃあ、さっきナタルと同じように運転して、こっちに戻って来てみよう」
「わかりましたわ~」
しかし、彼女にしても安全に運転しているつもりなのだろうが、
『危険な運転を、感知しました。
自動停止します』
コンバインから、そんなアナウンスが流れて、ゆっくり止まってしまう。
「ハ、ハヤタ様…」
ナタルが運転していた時には、こんな事が起きなかった事もあり、ミスティは不安な表情で遠くのハヤタを見るが、ハヤタはインカム越しに答えた。
「最初に運転するって事になると、こうなるモンなんだよ。
実際、こうなるのをナタルで期待してたんだけど、どうやらあのVRは、運転補助も付いていたのは計算外だった」
「そ、そうですの?」
「まあ、会社敷地内で運転の際、各コンバインには安全なプログラムが組まれていてな。
規定以上の速度で運転しようとすると、今のように止まるようになる」
「そ、そうなのですのね…」
「じゃあ、ディスプレイに再起動が出てるのがわかるか?」
「はい」
「それを押して、言われたとおりに運転して戻って来てくれ」
ミスティにそう説明すると、彼女は今度は上手く運転して戻ってきた。
「よし、今度はベリルの番だ」
するとベリルは困っていた。
それもそのはず、ベリルはハヤタの腰までの身長しかないからだ。
「ハヤタ、私、ペダル、届かない」
「こういう時は、モードチェンジして…。
ハンドル操作のみで、運転できるようにするんだ」
「おお~」
ベリルは感嘆しながら、軽々と運転しているのを見て、ミスティはハヤタに言った。
「ハヤタ様、ズルいですわ。
こんな簡単な方法があるのなら、先に言ってほしかったですわ」
「うん、先にミスティ達に見本として、やるべきだったな。
手際の悪さだな。
慣れてないという事で勘弁してくれよ…」
「そ、そういえば、クオウ様もおっしゃってましたわね」
そう言って、三人のやり取りを遠目に、ミミミがクオウに聞いてきた。
「それで『次のいざござ』って、何が起きたのよ?」
「聞いてたのか?」
「まあね?」
クオウは『そうだな』と、頬をポリポリと掻いて答えた。
「そんな調子でハヤタが、普段の倍以上の土地を耕し、種だってノルマ以上に植えるわけだ。
当然、上司たち、老人どもが言ってきたんだ。
『なぜ、コンバインを今まで使わなかったのか?』
なんてな…。
すると、当然、この風当たりに耐えられないヤツらが『やめさせろ』と言ってきたんだ」
どんな人種の人力でも、機械の力には敵わない事がある。
ハヤタの倍近くある体格のクオウ達、オオカミ男でも、それに当てはまったらしい。
「確執って、ヤツだな。
ちょっとした、暴動になった」
「それって、結構、危ないじゃない?」
「うん、はっきり言って、ヤバかったな。
だが、爆発寸前だった状態を立て直したのも、ハヤタだった」
そう言って、クオウは成った作物を眺めて続けた。
「アイツのナノマシンが、コンバインで植えられた作物より、手作業で植えていた作物の方が出来が良い事に気づいたんだ」
「でも、それ、何の解決になってないじゃないの?」
「いや、大事なのは、作物の大量生産が出来るという事と、品質の高い作物を区別する事だ。
こうする事によって、会社にとっては利益が違ってくるだろう?」
「なるほど、そうする事によって、卸す業者、業種も見直す事で、良い方に利益を生まれたのね」
「そして、オレは、昇格した」
「アンタ、面白くなってきたでしょ?」
するとクオウはハヤタを呼び寄せ、ハヤタをどこかに行かせた。
その後ろ姿を見て、クオウは言った。
「まだ、問題は、そこで解決してはいなかったんだがな…」
「まだ、あるの?」




