第六十五話
ハヤタはコンバインを目的の場所まで運転しながら、インカム越しにクオウに話しかけた。
「今にして思えばさ、あの時、やめさせるつもりで話し掛けて来たんだろ?」
「まあな」
「即答かよ?」
「この通り、オレはこういう役まわりなんでな。
でもな、言っておくが、最初は断ったからな?」
「どうして?」
「バカ、お前。
隣に住んでるヤツをやめさせて、次の日に出会ってみろよ?
気持ちくらい察しろ…」
「うわ、それ、確かにきついな…」
クオウとハヤタのやり取りに、周囲のオオカミ男達はインカム越しに笑うが、ナタルは神妙な面持ちで聞いてきた。
「ですが、ハヤタ様はお気持ちは良くなかったのでは?」
「実際、最初、リッカの職場で、クビになっていたからな。
その分、雰囲気は察していたんだ。
その事あって、最初よりはダメージはなかったんだろうな?」
「アンタとリッカが、顔を見知っていたのは、そういう事なのね?」
ミミミは続きを聞こうとしたあたりで、クオウは察していた。
「なるほど、だからこその『猶予』だったか…」
「まあ、これがキッカケの珍走族だからな…」
「お前も、言ってるじゃねえか?」
「言われて、気づいた珍走族だよ」
ハヤタは軽く笑うが、合点がいかないのが女性陣なので、クオウは説明をする。
「ハヤタにその話をする直前、コンバインを見つけてな。
ハヤタと免許がどうだか言ってたな」
「今となっちゃ、懐かしい話だな。
『社内を運転するには、そんなモンいらんぞ?』
クオウが、そう言ったからさ。
一週間もらって、コイツの運転を学んだんだ」
「まあ、付き合わされたがな…」
「無免許でコンバイン(コイツ)を運転するんだから、研修、監督くらいしろよ?」
「こっちは研修ってのを、やった事がないんだぞ?」
「それは、それで問題だよ…」
「ですけど、ハヤタ様は、その一週間で運転技術を習得したワケなんでございますね」
『すごいです』とナタルはVRを『ニコリ』とさせていた。
「それは最初は、難癖をつけるヤツだっていた。
だが、ハヤタはコイツを使って、悠々とノルマをこなすワケだから、文句もつけようがない。
そういうのを見ていると、周りの奴らも興味を持ってな」
「それで周囲に運転技術を教えているうちに、何故かオレが、この会社のコンバイン担当になったんだ」
「何だ、ハヤタ、嫌なのか?」
「毎度、思うんだけど。
週一の勤務のヤツに、そんな担当を当てるのは良くないと思うぞ?」
そんな解説に他のコンバインを運転していた色違いのオオカミ達は、笑いながら答えた。
「ハヤタは、クワを持てないんだから、良いじゃないか?」
そんな事を言われて、ハヤタは。
「いっとくけど、あんなクワが片手で持てる、お前らがおかしいんだからな?」
笑っているオオカミ達に反論をするのを見て、クオウも頷いて答えた。
「おかげで来年から、現場作業の採用枠だって広がったんだ。
これは、お前の功績だ」
「そりゃ、どうも…」
「そして、俺も昇格した」
「あら、めでたいわね」
ミミミは呆れながらではあるが、聞いてきた。
「でも、今までだって、コンバインはあったんでしょ。
彼が来るまでの作業、どうしていたのよ?」
彼女の真っ当な質問に、一瞬、静かになったので、ミミミは少し緊張してしまう。
「そんなモン…」
代表だからかクオウが答えた。
「手作業に決まってんだろ?」
見えないがクオウは、得意げである。
「はあっ!?」
ミミミは驚くのも無理もない。
「この広さを、全部、手作業でやってたって事⁉」
この会社、農業が基本とはいえ、土地はハヤタの学校の二倍以上あるのだ。
「そもそも、俺らは車関係の免許なんざ。
持ってない」
「えっ、じゃあ、あの喧嘩まがいのスポーツ、スラロームをやってるって聞くけど、用具とか運ぶのをどうしてるのよ?」
「そんなのは、個人で持ってくれば問題ないだろう?」
『それが、何か?』というのが、他のオオカミ男からも伝わって来るから、ミミミは呆れほかなかった。
「脳みそ筋肉…」
ベリルのつぶやきは、クオウに聞こえていた。
「おう、ほめ言葉だな。
まあ、これが次のいざこざを生むんだろうな…」




