第六十一話
「おい、お前、寄生虫は、食中毒は?」
ミミミツの反応を見る限り、アポニーの憶測は当たっていたのだろう。
ハヤタは、あきれながら言った。
「あのな、この海鮮丼で、寄生虫だの言ってたら、逆に、お前らの食事事情が気になるわ?
っていうか、お前、やっぱり、オレに嫌がらせをするつもりだったんだな?」
「うっ、いや、その…」
ミミミツの、あからさまな態度にハヤタは思わずレンと目があい、頷いて答えた。
「言っておくが、生が不衛生なら、もっと不衛生なのあるからな?
自分の惑星の料理と言ってな…。
あれ、自分の惑星の料理…。
ええい‼」
ハヤタがナノマシンによる、言語規制にいら立って、何とか動作で表していると、レンはハヤタの動作で察したらしく。
「もしかして『握り』の事かい?」
その時、レンの曖昧な発言ではあったが、ハヤタは不思議と理解できた。
「多分、それであってると思う。
もしかして、あるの?」
「あるけど、封印してる」
「えっ、どうして?」
「ミミミツ君を見たまえよ?」
「なるほど」
そして、ハヤタはこうも言う。
「もったいない…」
その嫌味ともとれる態度に、ミミミツは顔をしかめそうになるが、今回は好奇心が勝ったらしい。
「そ、その『握り』というのは?」
「ハヤタ君、答え合わせに説明をしてみてよ?」
「技術が伴ってないんだけどな…」
そう言いながら、ハヤタはミミミツに動作と共に説明をする。
「こう、ご飯を握ってだな…。
ほいっ、お待ち‼」
「待ってないよ」
職人が聞いたら怒られそうなのだが、まあ、説明というのはそんなモンだろう。
ミミミツが冗談だろうと、レンに視線が逃げたが、彼女は笑いながら言った。
「やれやれ、何年後に封印が解かれるのやら…。
料理人として、嘆きたくなる」
すると今度は様子を見ていた、ナタルが聞いてきた。
「ハヤタ様の惑星では、生食に抵抗がないのですか?」
「そりゃ、好き嫌いはあるぞ?
でも、俺の国…地域では、基本的に抵抗はないんじゃないかな?」
ちなみにナタルに生食に関して聞き返してみると、彼女も抵抗はないらしい。
「まあ、授業でやってたけど、生モノなんて地域によっては腐りやすかったりするんだから、生卵を、ご飯に掛けて『食べろ』なんて言う気はないよ」
「生卵⁉
アンタの惑星の食事事情、どうなってるのよ?」
ミミミが驚いて見せるので、この兄妹には生食の文化はないのがわかった。
その上で、レンが頷いて。
「もったいない」
「確かに…」
ハヤタも頷く。
「卵、一つを…」
「小皿に落として…」
動作が自然と合うのが、微笑ましくあるが…。
「完全に解き終えた生卵を、ご飯に混ぜて食べるのが、おいしいというのに…」
「完全には解かない生卵を、ご飯に乗せて食べるのが、おいしいのにな…」
ここだけ、意見が合わなかった。
「……」
二人が黙ってしまう。
「え、何、何よ?」
それはミミミが思わず緊張してしまうほどの、静寂を二人が生み出していた。
「…その派閥の人間が、ここにもいようとはね?」
レンは先ほどの微笑ましさはどこへやら、ハヤタは首に軽い柔軟を施して『俺もだ』と答える。
「住む惑星が変わっても、この論争があるとはな?」
「論争、確かに…。
その言い方が正しい」
「あ、あの、一体、何の話でしょうか?
な、なあ、ハヤタ?」
雰囲気に吞まれながら、ミミミツは何とか聞き出そうとするので、レンは静かに、
「私から言うべきだろうね」
さきに答えたのはレンが手を挙げていった。
「古来より、料理というのには、論争が付いて回る」
「ろ、論争で、ございますか?」
「さきの生食も、一端に引っかかったが故に発生した論争だ。
それは、生モノは腐りやすかったり、微生物が発生するから…。
『生での食事はやめろ』
と言われる。
しかし…」
「適切な処理を施していれば、
『食中毒の危険もないのだから、大丈夫』
という、この論争が、母というべきか、父というべきか…。
ハヤタ君、キミが言ったことは料理人が向かい合うべき宿命だ。
私だって、避ける気もないし、逃げる気もないよ」
レンは静かに答え、ハヤタの返答を待つ。
「忌々しいモンだ。
例え、煮て作られようと、焼いて作られようと、発生するんだろうな?
混ぜるか、混ぜないか…」
その一言にレンはキッと睨みつける。
その先には、当然ハヤタがいる。
「自分の惑星の料理を混ぜるか、混ぜないか?
自分の惑星の料理を混ぜるか、混ぜないか?
きのこか、タケノコか?」
「言語に規制が掛かりすぎて、読みずらいじゃないか?
そう、言うなれば、食べ方だ。
いや、マナーというべきか?」
「俺は、よほど相手が食べ方が汚い限り、俺は文句は言わん。
だが、それ以前に、うまい食べ方があるのだ!!」
二人は同時に答えた。
「「なぜ、それをしない!!」」
アポニーは呆れて言った。
「キミたち、仲が良いだろ?」
ルビ打ち、難しいです




