第六十話
「え、あ、あ、その…う…」
さすがにミミミツも、この状況がマズイ事はわかるのか、笑顔で誤魔化そうとする。
「……」
しかし、どうにもならないので、ハヤタに視線を送るしかなかった。
だか、ハヤタは『どうして彼女が怒っているのか?』が、わからなかったのでレンの出方を見るしかなくなっていた。
ミミミが、その状況に気付いたのは、兄との血のつながりからか、
「ちょっと…」
さすがに来賓を怒らせるのが、マズいと駆けよった頃には、
「ミミミツ君、いくらキミの誕生日とはいえ、コレを注文するから、おかしいとは思ってはいたんだよ」
周囲に状況が、知れ渡る事になっていた。
「私は確かに、この惑星の食事事情を、牛耳るほどの地位に甘んじてはいる。
だが、嫌われ、干された時期があったのも、忘れてはいないんだよ?」
「嫌われていた時期?」
「ハヤタ君、キミは知らないだろうね。
だから聞くけど、これを見てどう思うかな?」
レンは先ほどの盛り付けた料理を、指さして聞いてきた。
「えと、普通の料理、だな?」
「私はね、この料理を作った事で、嫌われた事があるんだ…」
レンはミミミツをみていたが、その視線の冷たい。
だがその理由が、ハヤタは合点がいかないでいると。
「随分な嫌われ方をされたのはわかるけど、少し良いかな?」
アポニーが食事を頬張りながら、レンに聞いていた。
「ふむ、キミは…?」
「アポニーだよ。
ここの臨時講師をやってる」
『よろしく~』と手を差し出すが、さっきまで機嫌の悪かったレンに、その対応は難しいのだろう。
その態度にアポニーは、構うことなく話す。
「ふむ、さっきから、キミたちのやり取りをみてたけど。
おそらく、ミミミツ君が、その料理を食す事か、勧めるのかによって、ハヤタ君を驚かせようとしたんだろうね…」
このモジャモジャ頭のアポニーは、警察関係者でもある。
その鋭い指摘は、レンを頷かせるのには十分だった。
「私にしても、この料理を出すのには、十分な注意を払って提供する」
「でも、これ、伝統的な料理だって、聞いた事があるよ?」
「例え伝統であっても、
当時の料理人たちにも『これは料理ではない』と理解はされなかったのが『現実』だ」
「じゃあ、どうして、作る事になったの?」
「誕生日だからこそ、だよ。
要求に応えるというのが、料理人というモノ。
それを、そんな気持ちで、私の提供する料理を迎えるのなら。
侮辱でしかないだろう?」
周囲の反応もあるのか、レンは睨み付けるとまではいかないが、ミミミツを見ていた。
「……」
おかげでミミミツは凍り付いていたが、アポニーは彼に言った。
「ふむ、気持ちはわからんでもないけどね。
ミミミツ君、キミの計画は、すでに頓挫してるの気づいてるの?」
「え、な、何の事でしょうか?」
その反応に構わずアポニーは、ハヤタを呼びつけた。
「では、私が君の役をやってあげようではないか?」
いよいよ、彼女の意図がわからなくなったので、レンも動向を見守る事にする。
するとワザとらしい演技で、アポニーは自慢し始めた。
「ハヤタ君、この料理は私の大好物でね…。
キミもどうかな?」
演技というのが慣れてないハヤタは、こう答えた。
「ええと、コレを食べれば良いのか?」
「そうだよ、そうだよ。
珍しいだろう、驚いただろう。
この料理は…」
というか、ハヤタはレン自身が『どうして、怒っているのか?』を理解していないのだから、従うしかないので。
「海鮮丼って、言うんだよ」
小林 早太は、それを一口食べる。
「本格的な海鮮丼は、初めてだけど…。
コレ、うまいな…。
もう一口、良い?」
『遠慮なく』というアポニーの反応に、それにはミミミツも驚いて見せるので彼女は答えた。
「ミミミツ君、今日の授業、見に来てたんだから、気づいてたと思うんだけど?」
「そ、それは途中から入ったのだから、内容までは…」
「その手の会話も、してたと思うよ?」
「ちなみに何の授業を?」
レンはそう聞くと、とりあえずハヤタは断わりを入れて、その海鮮丼にタレを一掛けして言う。
「惑星における、沿岸と内陸の食事事情の歴史…」
「つまり、ハヤタ君、まさか、キミは…」
レンが言い終わる前に、ハヤタは箸を使って、魚を何の抵抗もなくほおばって答えた。
「生魚を食べる事が出来る」
『うん、うまい』と舌鼓を打つハヤタを、驚くように見たのはミミミツだった。




