第五十九話
そして、ハヤタは案の定、その人物の前に連れ出されてしまう。
「いやー、レン様、今日は、ようこそおいでくださいました」
チャイナドレスの料理人、レンは静かに頭を下げて、挨拶を返した。
「いえ、どのような場面でも、培ってきた技術を示すのが、料理人というもの。
こちらの方こそ、最近の若者がどのような、趣向の食材を好むのか、いい勉強になる。
本日は、腕を振るわせてもらうよ」
そう言ってレンは、ハヤタとミミミツに会釈を交わして、改めてカウンター席に着くように促すので、席に座る。
だが、ハヤタはミミミツの態度の方が気になっていたので、良い表情はしてない。
「ハヤタ君、そんな顔をしないでほしいな。
キミとはいつか、食事をしてみたいと思っていてね。
では、レン様、よろしくお願い出来ますかね?」
「任された」
レンは職人的な受け答えをして、大きめな魚を取り出して、
「ふっ」
一息いれた、その一瞬。
魚をさばく、彼女の包丁さばきは職人技という言葉がふさわしい。
「どうだ、ハヤタ君?」
そんなレンの周囲を魅了していくのが、何故か得意げなミミミツは、こうも語る。
「このタインと言う、魚でな。
今が旬なのだ。
その新鮮さ、この脂身は、舌がとろけるほどうまいのだ」
一見、ハヤタに言っているように聞こえるが、これは明らかにレンに向けて言っているのがわかる。
「ハヤタ君、キミのエキスパンジョンは『料理』だそうだが、何かわかるかな?」
彼の持つ、経験とうんちくで、自分をこき下ろしたいのだろう。
「知らないよ。
ただ、レンさん、一つ質問していいかな?」
「なにかな?」
「その魚って、ウロコのあるタイプの魚だろ?
処理をしなくて良いのか?」
それを笑って答えたのは、ミミミツだった。
「予め処理したモノを、用意してるのだよ。
ハヤタ君」
『お前に聞いてねえ』と思いもしたが、レンは魚をさばきながら答えた。
「料理人の中には、ウロコからの処理が鮮度の始まりという人もいるけどね」
「適した保存方法もあるのだから、その辺は工夫の範疇だと思うぞ?」
「そう思ってくれると、ありがたいよ」
彼女は、あっという間に一匹の魚をさばき終え、レンはさらにもう一匹さばきにかかる。
今度は皮の厚い魚、なのだろう。
「すげ…」
包丁で、エラを切り落とし、皮を簡単に処理するレンにハヤタは感嘆していた。
「さすがのキミでも、凄さがわかるみたいだな」
彼の表情を見たミミミツは、まだ、得意げだ。
「そりゃな、俺には、出来ないからな」
「それはそうだ…。
えっ、出来ない!?」
意外な回答だったのか驚いてるミミミツを見ながら、ハヤタは頷いて答える。
「まず、オレがやったら、最初のエラを落とすところで、レンさんに怒られる」
その指摘にレンは微笑んで聞いてきた。
「ナノマシンというのは、そういう事もわかるのかい?」
「食べられる箇所、うまい箇所、調理方法、そういう分析を感覚的に教えてもらってる感じだけど。
いくらエキスパンジョンで包丁を入れ方がわかってても、実際やるのとはわけが違うからな。
知り合いにさっき聞いたけどさ。
レンさんって、エキスパンジョン使わないで、この技術をだしてるんだから、素直にすごいと思う」
「そうか、ありがとう」
そう言って、魚をさばき終え、次の工程に移りながら、レンは聞いてきた。
「…キミはどうして『料理』を、エキスパンジョンに選んだんだい?」
するとこの雰囲気が気に入らなかった、ミミミツは割り込んで答えた。
「このハヤタという男はですね。
自分の惑星が滅んで、間もありませんでしてね」
この言葉を聞いた瞬間、
「なんだって…?」
レンは目を細めた。
「この惑星で生活をし始めるということで、料理、自炊が必要だと考えて。
エキスパンジョンに『料理』を選んだそうなのですよ。
おかげでレン様の食事を味わった事がないのですよ」
「おい、ミミミツ、最初の頃は、弁当だったぞ。
無い事はないからな?」
しかし、配膳し終えた、レンは静かに言った。
「ミミミツ君と言ったね?」
「はい、何でしょう。
レン様?」
「どうやら、キミは、私を愚弄してるみたいだね?」
レンは静かに言ったが、その感情が怒りなのは、なんとなくわかった。




