第四十二話
「さっきも言ったけど、特別な事例だからね。
アポニーさんに、詳細に調書をとるように言われてるんだよ」
「アポニー、今日は来てないの?」
ハヤタは少し嫌そうに聞いたが、ワトニーはそれに気づいていないみたいだった。
「別件の調査に当たってる。
彼女、この件に関しては熱心だからね。
今日来られないことは、残念にしてたよ?」
「そりゃ、どうも…」
ため息をつきながら、この事情聴取を担当してるもう一人の記録係を、ふと見ると変わりない、いつもの男の警察官だった。
ちょっと視線があったので、会釈をすると『うん』と会釈を返したので、視線をワトニーに戻すと、彼女は改めて聞いてきた。
「ちょっとこっちも質問をして良いかな?
この事件、いや、ごめん…。
第三者の証言もある事だし、事件って、単語はよくないね」
「第三者?」
「ほら、担当の女医のヒルデ氏、他の医者たちがキミの正当性を証言してるんだよ。
調書上からでも、コレは事件性は低さは伺えるよ」
警察相手の独特の緊迫感の開放は何とも言えないモノだが、
「でも、ボクなりに、気になる点もある」
ワトニーはそれを引き締めるように言った。
「どうやって、キミはナタルさんに、彼女の惑星の情報を見せる事が出来たんだい?」
「ああ、あれか?」
「例え、一級劣等種の彼女でも、滅んだ惑星の情報は、最短で二年、場合によっては数十年、情報を閲覧する事は禁止されているはずだ?」
「自分の体内にもあるナノマシンの機能で、閲覧は出来ない」
「いくらナノマシンの制御下でも、身体的に、精神的に負担は計り知れないからね…」
その時、ハヤタが地球の事を思い出すのは、自然な流れだった。
ハヤタにしても当時を『覚えていない』というワケではなく、ナノマシンや入院中の『教育』で考えないようにしてるだけで。
自分が、地球で最後に見た光景で、
「うえっ」
えずいてしまう。
「大丈夫かい?」
見るとワトニーと記録係は心配そうにしていたので、ハヤタは手で制して言った。
「断片的な記憶でも、こんな感じになるから、二級劣等種の俺もその惑星…。
今、自分の惑星って言ってるんだけど、言語も規制され、情報の閲覧に規制がされてる。
確か例外があって、調べる事が出来るようになるのは、考古学の資格がいるんだよな?」
「よく知ってるね?
でも、情報の規制という条件は、彼女も一緒はずだよ?」
「違いはあるだろう?
一級劣等種と、二級劣等種の違いだよ」
「違い…。
一級とされるのは、自分たちの科学力で自分の惑星を滅ぼす力があり、他の惑星、他の理性的な生命体の存在を知っている。
で、
二級とされるのは、それを知らないだよね?」
「いや、そうじゃなくて、一級は自分の惑星が滅んだ時に年齢や惑星の名称が残ってるって事だ。
調書を通りに順を追うと、まず俺が彼女から、惑星メティスの名前を知って、情報を持ち出した」
ワトニーの調書を、ハヤタは指を差して言うと、彼女は頷いて聞いてきた。
「じゃあ、そこで本題だ。
あの医療施設はキミのような患者を収監する施設でもあるため、情報収集のための図書施設もある。
でも、君がナタルさんに情報を見せるとか、様々な問題が発生するのを防ぐために、キミがダウンロードして室外に持って行く事は禁止されてるはずだ」
「それは簡単な話だな。
ナタルは、その施設内で情報を見たんだよ」
「だったら、余計に話がおかしいよ。
彼女にもナノマシンは、投与されている。
その端末の操作自体が出来ない、どうやってキミは…」
ワトニーは自分が早口になっていくのを感じたのか『ごめん』と謝罪して、自分を落ち着かせるように言った。
「まるで推理小説のトリックだね」
「アポニーのせいだな。
アイツがここまで、調べる事なんかしなかったのが悪い」
「年上にそんな言い方するモンじゃないよ?
彼女は確かに変わってるけど、優秀なんだよ?」
「いや、俺だって、そのトリックをいつか聞かれるんじゃないかって、用意してたモノだってある。
それをアイツ、聞こうともしないでさ…」
さすがのハヤタの言い草に、ワトニーは気づいた。
「今、気づいたんだけど…。
キミ、あの人の事、嫌いなのかい?」
「嫌いだな…」
そう言って、ハヤタは断りを入れて、その用意しているモノをカバンから取り出した。
彼の生徒手帳だった。




