第四話
そんな暗い空気を嫌った、リッカが聞いて来た。
「私もさ、自分の惑星が滅んだのが、おじいちゃんの代だったらしいから、噂程度だけどさ。
救助された後の『40日間』って、そんなにキツいの?」
「急に打ち込まれた、ナノマシンが悪影響とか与えるのか?」
二人にとって惑星が滅んだ事は、過去の事だが、やはり事は伝え聞いた事なのだろう。
ハヤタも暗い空気が嫌いなので、出来る限り気分を上げようと話す。
「まあ『自分の惑星が滅んだ』なんて、いきなり言われて、当時の自分でも納得出来ないワケでさ。
それでも、色々と状況が教えてくれるワケなんだ」
「状況が教えてくれるって?」
パンチが言うとおり、二人とも理解が出来ない様子だったので、ハヤタは一旦、机に書いている文字を指差した。
「コレは当時の担当医が言ってた通りの言い方だけどさ。
この文字とか、読めないんだよ。
習っても無いね。
でも、読めたりするんだよ」
「それはナノマシンのおかげだろ?」
「うん、パンチが今、話す言葉もそうなんだけど。
通訳が出来てるんだよ。
習っても無いのに、通訳が出来る技術が自分の状況を納得させる要因でもあるけどさ。
色々、自分の惑星の現状の画像を見る機会もあるんだ。
そこで、だんだん本当に自分の惑星が滅んだのを知るんだけど…。
結局、あまりにも現実離れしてて…な…」
「自分の持ってる知識の許容量ってヤツを、オーバーして気絶とかするんだっけ?」
ハヤタはリッカの言う事に、真面目に答えた。
「代表的な建造物が荒廃した映像を見た時、オレは手足が震えるだけで済んだよ」
そして、やっぱりハヤタが暗くなるのも無理も無い。
「まあ、帰る家もないワケだろ?
人によってはな。
地位、名誉、お金、そんなのが全部無くなったワケだしな」
「それが耐えられなくなって…」
リッカは『40日間』の本質を語る。
「自殺する…」
やはりこんな事を言うのは気が引けたのだろうが、ハヤタは自分の中で駆け巡っているであろうナノマシンを思いながら答えた。
「ナノマシンにも自殺を抑制するシステムが組み込まれていても、行動は防ぎきれないって、担当してた先生も言ってたけど。
現実、オレのトコは何人かいたらしいぞ?」
パンチに自分の惑星の生き残りはどれくらいいるのか聞かれ、
『100名くらいいる』
と言ったのを思い出したが、それは色んな意味を込めて言ったつもりだった。
自分にしても昏睡状態から目覚め、周りには地球人はおらず、一人だったから実際は実感が無いから先ほどの発言に現実味を持たせる事は出来なかった。
「うん、なんつーか、キツいな…」
パンチはそれだけを言って、頷くだけだった。
「でも、チャンスであるのは間違いないな」
リッカは、空気を切り替えるように言ったのは間違いないが、ハヤタは言っている意味がわからなかった。
「つまり第二級劣等種から、第一級劣等種に格上げ出来るチャンスだって事だよ」
「ああ、確かに!!」
パンチも頷いていたが、いまいちハヤタはわかっていなかった。
「ハヤタ、この食堂に文化保有種がいないのはわかるな?」
「えっと、確か惑星が滅んでない人たちだったか?
まあ、確かに感覚的には、いないと思うけど?」
ハヤタは『感覚的』と表現しているが、これも実感している事だった。
やはりどこにも差別というのはある。
自分たちは住む惑星を自分の手で砕いた劣等種。
こっちは文明を未だに保有している、文化保有種。
名前は違うが、おそらく自分たちの事を『優良種』だとでも思っているのだろうと、病院にいる間、その扱いを医者であっても、ハヤタは何回か感じる事があった。
「だから『正門』からではなく『裏門』から入っていったのか?」
だが、おかげで気づく事がある。
「あれ、ナタルはどうしてるんだ?」
思わず、キョトンとした言い方だったのか、リッカは笑いながら言った。
「だから、それが一級劣等種な。
惑星を滅んだ、滅ぼしたにしても、考え方事態違うワケだよ。
ちなみに私とパンチは三級劣等種、で、お前は二級劣等種」
するとパンチは慌てて答えた。
「オレ、二級だって!?」
「嘘!?」
パンチの生徒手帳を見て、リッカは驚くので聞いてみた。
「ところで一級、二級とかって、どう違うの?」
「え、知らないの?」
「また日も浅いのが、ここに出たか…」