第三十六話
「どうして負けるとわかってて、この勝負を受けたのですか?」
「それ、クオウから聞いたの?」
「いえ、ヒルデ様から伺いました」
想定と違うナタルの回答に、ハヤタは一瞬、黙ってしまうが、これには『自分の口から話せ』という意味合いがあるのだろう。
「わかっていなかったからだよ」
「どういう事でしょうか?」
「俺はさ、人を呼び出すために、あの装置を使うなって怒ってただろ?
でも、ミスティは最後まで自分の勝負にこだわっていたんだ。
結局、あの装置を使ったらどうなるか、ホントにわかってなかったからだ」
胸の中のナタルは額をつけたままなので、聞いてみた。
「そういえば、ナタルは制御装置の対象外だったな?」
「はい、優良種や一級劣等種は、その防犯装置の対象ではありません」
「身体中をを徘徊してるナノマシンを、強制的に歩き回らせるだけの単純な装置なんだが、俺らにはさ…。
それが激痛が走るわけだ。
それも身動きがとれなくなるくらいにな。
…それをミスティは知らなかったんだ」
ハヤタは『勝てない』と言ったヒルデや、クオウの前で話した事を話す。
「ミスティは、そんな装置を使ってたんだ。
ベリルがどんな状態で、ミスティと接していたか知らずにな。
そんな状態のヤツを、足手まといと言ったらダメだろ?」
「ハヤタ様は制御装置を使ってこさせるのが、狙いだったのですか?」
「俺が勝とうが、負けようが結果はどうでもよかったんだ。
ただ、あの装置を使うとどうなるのか、そんな相手を間近で見てほしかったんだよ。
そして…」
ハヤタは今回の本当の思いを答えた。
「ベリルに、謝ってほしかった」
自分勝手な想像だと、つくづく思ったが、ハヤタは頭がクラクラしたので、自分が今、その状態だというのを思い出したので、
「悪い、寝るわ…」
そういうと、
「はい…。
ごゆっくり…」
ナタルはハヤタを抱き寄せた。
「…!!」
ハヤタは驚きもするが、そのまま眠りにつくのだった。
そして、翌日。
ハヤタの住むアパートの二階、彼の部屋に続く床は鉄筋である。
ガンガンガンガン。
階段を駆け上がり、こちらに向かってくる様な音は、ナタルの目を覚ました。
「…けなさい!!」
ドンドンドン。
勢いよく部屋のドアを叩く音。
ナタルは寝ぼけもあるが、物々しさに不安を見せたが、
「んん…」
ハヤタも目覚めた事に、安堵を見せる。
「ハヤタ様、おはようございます」
「ああ、おはよう」
身体を起こして、ハヤタは懐かしむように言った。
「ナタル、いつも俺より早く起きてるな。
って、入院してた頃を思い出した」
そうやって、二人して思いに浸っていると、
「ちょっと、無視しないでよ!!」
ドア越しにいるであろう、ミミミに注意されていた。
そして、彼女は入ってくるなり、ナタルに詰め寄った。
「何もされてない?」
「私たちは一緒に眠っていましたが?」
その一言で、ミミミはハヤタを睨みつけるが、どうやら『何かした』と思われてるらしい。
おかげで騒がしくなったので、部屋を仕切ってあるカーテンが揺れ、
「何よ、騒がしいわね~?」
寝起き独特の気だるい声で、この騒がしさを注意された。
ナタルは声色でヒルデとわかったが、眠る前になかった仕切りカーテンを不思議そうに見ていた。
「ハヤタ君、若いからって回復が早いのはわかるけど、私、寝起きが悪いって言ってなかった?」
そう言って、カーテン開くと予想通りヒルデが現れた。
下着姿で…。
「アンタ、最低…」
ミミミの視線が痛い事、痛い事…。




