第三十二話
「待たせましたわ」
「手間を掛けさせたな」
「礼には、及びませんわ」
「いや、タイミングを逃してしまいそうでな。
勝負を受けるトコロから、始めっから、アンタには世話になってばっかだからな」
「ルールで縛った勝利に何の意味がありますの?
当然の礼儀ではありません」
「こうやってルールを曲げてもらわないと、オレは確実に負けていた。
アンタ、ホントに真面目にやってるんだな?」
ハヤタは呼吸を整えながら言っていたので、ミスティに嘲笑を隠さず言った。
「スタミナ切れなのが、見え透いてますわよ。
負けた言い訳ですの?」
「いや、真面目な話だ。
真面目にやってるからこそ、そんな態度にもなるんだろうな?
外野にも、内にもな?」
「言ってる意味がわかりませんわね?」
「なあ、どうしてベリルを毛嫌いするんだ?」
周囲にはにらみ合っているように見えたが、ハヤタはミスティに聞いた。
「ベリルはな、そんな真面目にやってるアンタに憧れてたんだぞ?
その態度はアンタだって、わかってたはずだ?」
「それこそ、真面目にやってるからこそですわ。
真面目にやってるからこそ、彼女は足手まといですのよ」
「足手まとい?」
「そうですわ。
あの子は、確かに真面目ですわ。
ですが、スタミナもない、目を張る技術もない。
そんな人は、周囲の格上げの取り巻き達と変わりませんわ」
「そうかい…」
呼吸が整ったと思ったのだろうか、ミスティは迎え打つ構えで答えた。
「勝負は、これからですわよ‼」
半分、彼女の見立て通りの展開だった。
数秒そこらで、スタミナなど回復するわけがない。
再度、始まった攻防は彼女の優位に始まる。
「もらいましてよ‼」
あっという間に防戦一方となったハヤタに、彼女は確信して答えた。
「劣等種が、優良種に勝とうなど、甘い考えですのよ」
だが、それ以上にハヤタはどこかで『予感』していた。
「てー‼」
ハヤタの声は『まだ』出ていた。
「ハヤタ、来るぞ?」
クオウはそう呟いた、その時まで・・・。
「むおっ‼」
自分の血液が逆流したのかと思うほどの、激痛がハヤタを襲った。
「来やがった‼」
自分の見えぬナノマシンに悪態を付きながら、何とか構えを取るが、
「もらいましてよ」
ミスティの攻撃を受けた姿勢が簡単に崩れ。
「ハヤタ様!!」
ナタルの悲鳴も虚しく、とうとうポイントを取られてしまった。
「く、そ!!」
それでも試合が続き、ミスティの追撃を何とか避けようとするが…。
…もう身体の自由が効かなかった。
片膝を付くようにころがった形で、間合いを取る事しか出来ていなかった。
「無様ですわね、それも貴方の惑星の避け方なのかしら?」
嘲笑するミスティに、反論しようにも、
「…そんな余裕ねえよ」
負けじと攻勢に出るが、それはあまりにも大振りな攻撃だった。
「あら、完全にスタミナ切れ…?」
その異変はミスティにも感じとれたのは、ハヤタが落とした剣を拾う動作があまりにも鈍かったからだろう。
「ど、どうしましたの!?」
「何でも、ない!!」
構わずハヤタは、正面で身構え飛び込むが、明らかにリズムを失っていた。
「お、お待ちなさい…」
今までとは雲泥の差のある動きに『戦略か?』と思いもしたが、
「劣等種め、調子に乗りやがって…」
そんな考えは、周囲のその一言で一瞬で払拭した。




