第二十九話
そうして、週末が来るのはあっという間だった。
「ハヤタ、首、どうしたんだ?」
試合会場にて、クオウは首をさするハヤタに『寝違えたか?』と聞いて来た。
「前にリッカにやられたヤツが、痛えんだよ…」
「あれか、重傷じゃねえか…」
お前の所為だろと、クオウは呆れながら、ハヤタを見て。
「ふぅむ…」
改めて、聞いてきた。
「準備は…言うまでもないか?」
「ここまでしてもらったんだ。
聞くまでもないだろ?
でも、な…」
ハヤタは自分の控え室から、漏れる音に緊張して見せた。
「緊張しすぎじゃないのか?
こういう大勢の前で、試合だってした事あるんだろ?
今更、ビビってどうする?」
「やった事あるけどさ。
一対一の試合でさ、ここまで大きな会場を借りるとは、思いもしなかったんだよ」
ハヤタは最初、自分の学校にある体育館なりを使用許可を取って、そこでやるモノだと思っていたので、少し怯むのも無理も無い。
「まあ、確かにここまで大事にするとはな…」
クオウも大げさだと茶化していうが、真面目な態度で答えた。
「…見せしめでもあるんだろう。
実際、劣等種を毛嫌いする輩なんざ、どこにでもいる。
それでいて、明らかな実力差があるんなら。
それを見せつける形で、娯楽にでもしてやろうと考えているヤツがここに集まってきたって事だろ」
ハヤタは思わず、舌打ちをしそうになるが、
「だが、ハヤタよ。
それを『承知していた』のだろう?」
クオウは含みを込めて言うので、ハヤタはそれに頷き、会場に向かうだけで答えた。
「それなら、オレはそれを見届けるだけだ。
どんな結果であろうとな」
その会場独特の光に、ハヤタは歩みを進める。
「あ、ハヤタが来たぞ!?」
思ったよりしっかりとした会場に戸惑いもするが、パンチの声が聞こえ、すぐに平静を取り戻していた。
そのハヤタの姿を見つけたミスティは、緩慢な態度で出迎えた。
「お待ちしておりましたわ」
聞こえ良い、明らかな嘲笑に、陰の中にいたハヤタは歩みを止めて睨む事にした。
「恐れずにようこそ、二級劣等種、コバヤシ・ハヤタ様」
「一回勝った人間を、どう恐れるんだ?」
挑発を挑発で返すので、ミスティに睨まれもするが、
「勝負するってのはいいが、ここまで大げさにするって事は、今度こそ負けても文句は言えないよな?」
嫌味を付け加え、狙い通り苛立ってくれると思いもしたが、
「そのお言葉、この華やかな会場で、貴女を打ち負かせて、そっくりそのまま返してさしあげますわ」
案外と乗り気だったので、この挑発は失敗だったと苦い顔をする。
…相手が悪い。
確かにその通りだった。
一週間の間とは、ハヤタはそれを痛感するのにも十分な時間でもあった。
自分の握ってる『ブレード』と呼ばれる武器もそうだった。
コレを生身で叩かれると、防具の上から竹刀で叩かれるほどの、衝撃が走る事に始まる。
「ハヤタ、ホントに良いのか?」
「とりあえず、叩かれて見ないと、どんだけ痛いかわかんないだろ?
こういうのも大事なんだよ」
「じゃあ、行くぞ?」
「ちょ、ちと待て!?」
「何だよ?」
ブレードと呼ばれる剣をパシパシとしながら、ニヤニヤするクオウを見て、ハヤタは怯んだ。
「やっぱり、いきなり頭はやめよう…」
「じゃあ、腹にするか?」
「腹も、結構な急所だろ…」
「じゃあ、手か、足か?」
「痛いのは、やっぱ怖え…」
さすがにクオウも苛立ちを見せて言った。
「じゃあ、どこにするんだ?」
「ケツでお願いします…」
「おるあぁ!!」
「痛ったい!!」
今にして思えば、何をやってるんだろうか?
そう思いもするが、彼女の経歴でも、ハヤタにとって驚くモノであった。




