第十八話
「ま、まあ、お前なら、やってくれるであろうと…。
お、思っていた…」
リッカはミミミツの態度に『何処が?』という態度であったが、
「まあ、パンチも手伝ってくれたからな…」
ハヤタの態度はどこかよそよそしかった。
「ま、ま、まあ、コバヤシ・ハヤタ。
お前は生徒会の一員として、認めてやろう」
ナタルはソレを聞いて、喜んでいたが、
「……」
ハヤタの態度は対照的だった。
「なあ、ナタル…」
「はい、何でしょう?」
「今日の仕事は、まだ、あるのか?」
ナタルの『いいえ』という言葉に、ハヤタは頷きながら答えた。
「ちょっと、今日は先に
帰るわ…うん…」
先の掃除の時間、ハヤタにとっては、その理由を知るのに十分な時間でもあった。
「どうしての、アレ?」
「さあ、どうしたのでしょう。
ハヤタ様…」
ミミミは、さすがに気になってナタルに聞いていたが、当のハヤタはもういない。
それを何を勘ぐったのか、ミミミツは言った。
「ふ、ふん、どうせ何かしら手を回していたのだろう」
さて…。
そこは『正解だった』のかも知れない。
当然、こんな事もあろうかと、ハヤタは手を回せるほど器用な男では無い。
しかし、帰宅したハヤタは、思い当たる節に至れていた。
「…ハヤタ、この種族的にキツい姿勢は何だ?」
クオウを正座させ、
「なんすか、お頭…?」
ちょうど良いタイミングで『お頭』と呼ばれた、クオウの呼び出しを受けた、同族のオオカミ男達がぞろぞろとやって来た。
並ぶとクオウとはまったく見分けのつかない顔つきをしているから、ある意味、圧巻だった。
「ここに座れって事か?」
ハヤタの態度、リーダー格のクオウの姿勢で何かしらを察していたが、理解はしていない様子だったので。
「何だ、今日はヒルデが夜勤でいないから、今日は盛り上がるんじゃないのか?」
ぞろぞろと10名余りが、ハヤタの前で正座していた。
「いやさ、みんなに聞いてみたいんだけどさ」
ハヤタは聞いてみたのは、当然、事の顛末である。
どうして、あの時、素行の悪い生徒達の中で、作業がスムーズになっていたのか、ハヤタは陰口で知る事になったのだ。
「おい、アレがクオウの言ってた。
コバヤシ・ハヤタか?」
そんな一言は、先ほどのカラス達だけではなく、さまざまな種族に注目を浴びる事になったので、
「あの…。
クオウと、知り合いなのか?」
さすがに異変に気づいたハヤタは見物していた緑色の肌付きの男に聞いてみると、睨みを効かせながら答えた。
「お前、俺が手を出せないからって、調子に乗ってんじゃ無いのか?」
……。
「…そんな事を言われたら、それは早々と帰って来ますよ」
しかし、クオウは悪びれる事無く、
「何だ、そんな事か、別に悪い事はしてないだろう?」
軽く仲間に同意を求め、首をかしげて答えた。
「良いか、ハヤタよ。
事の始まりはナノマシンの処理とはいえ、教育は大切だ。
そういう事で、俺はお前に学費を出した。
そして、お前はそんな環境を生きて来た…。
そんな日常の中で生きてきたのだから、まずはそこで生活を慣らすという事で、お前は同意したのだろう?」
「確かにそれはありがたいことだよ。
でも、こんな事まで、やれって頼んでもない」
「だが、なめられてもいかん」
『いてて…』とクオウが正座の姿勢を崩しながら答えた。
「いいか、いじめなんてな。
どの惑星、どこにでもある事だ。
一度でも、下と感じたヤツは、いつまでも下に見続ける。
その末路は、どこでも最悪だ」
クオウの言う事に周囲のオオカミ男達が頷く、どこぞかに同調するモノがあったのだろう。
「俺はな…。
いや、俺達はな。
お前の今後の事を思ってやったんだ。
それを責めるのは違うんじゃないのか?」
ハヤタにしても、反論出来ないのは経験論だった。
「つまり、いじめられないために、やったと…?」
「いじめ、ダメ、ゼッタイってヤツだ」
「どこでもあるんだな。
そのフレーズ」
ハヤタは呆れていると、クオウはこうとも言った。
「それに、ハヤタよ…。
お前にしても『気づいていた』だろうが?」
オオカミらしいニヤつき顔で言うので、ハヤタは答える。
「まあ、ぶっちゃけ、気づいてたけど…」
「だろう~」
「にやつくなし…」