第十七話
ハヤタは思わず身体を強ばらせるのも、無理も無い。
鋭利なクチバシ、オオカミ男のクオウとは違った毛並みが特徴の、ハヤタ的な言い方をすると『カラス男』がこっちに向かってきた。
「な、なんすか~?」
パンチもハヤタと同じような恐縮を見せていた。
さきに『カラス』なんて言ってるが、自分たちより一回り体格が違うのだ。
はだけたシャツから見える胸筋も言わずもがな。
態度からだだ漏れる、喧嘩強さ。
絶対、相手をしてはいけない相手であるのは目に見えていた。
「ちゃんと掃除せえや…」
その低い口調が何とも威圧させる。
「は、はい!!」
今現在、パンチが絡まれて情けない返事をしているが、自分に向けられ話でもされたらと思うと、笑えもしない。
その区画を掃除を始めるのは、観念でもある。
が、予想はしていた…。
菓子を食べ終えたカラス男達の一人が、袋を丸めて『ぽんっ』と投げてきた。
「……」
カラス男はこちらを無視して、話を再開をしていたので『拾っておけ』という意味なのだろう。
パンチが自然と拾おうとして動いていたが、
「おい!!」
リッカが黙ってなかった。
「ちゃんとゴミはゴミ箱に捨てろよ。
そのまま捨てたら、食べカスがこぼれて、廊下が汚れるだろうが?」
その一言で、場の空気が明らかに張り詰めた。
一斉にカラス男達が立ち上がり、こちらを囲んだ。
「何だよ、お前等が掃除するんだろう。
だったら、食べカスくらい、そのほうきで払えばいいだろうが…」
そうゆっくり言いながら、カラス男はゴミを拾い、リッカに手渡すので、逆に怖かった。
そのハヤタの雰囲気を察したのか他のカラス男達は、にやついていた。
それが気に入らないらしく、リッカは睨み付けていたが。
「……」
さすがにパンチと二人で、リッカを止めに入る。
「やめとけって…」
しかし、普段、休日に、土木工事を生業としているリッカは、軽々と男二人を振りほどいた。
「どわあっ!!」
ハヤタは転げ、その様がカラス男達にとっては面白かったのだろう。
「うわ、想像通りのデカ女!!」
どうやらカラス男達は、人の感情を逆なでするのが得意らしい。
「誰がデカ女だぁ!!」
室内で、暴風が吹き荒れた。
「リッカ、やめろ、リッ…うおっ!!」
リッカは止めようとする男二人を軽々と振り回し、ハヤタ達が転がされる様を笑っているカラス男達の一人が何かに気づいた。
「おい、そこまでにしておけ…」
「はあ、何でよ。
面白いじゃねえか?」
「アイツをよく見ろ」
そう言われ、ハヤタをしばらく見て、止めに入ったカラス男が聞いて来た。
「お前、コバヤシ・ハヤタか?」
先ほどとは打って変わっての雰囲気の変化に、ハヤタは戸惑いながら答えた。
「あ、ああ、そうだけど?」
「ここに何の用だ?」
「生徒会の仕事でさ、ここら一体を掃除するんだ」
するとカラス男は頭を掻いて、仲間達にそう言った。
「お前等、からかうのはここまでだ」
なんとなくハヤタの事を確認していたカラス男達は、頷きながら退散して行き、こうまでも言ったのが聞こえた。
「ああ、オレ等、周囲にも話しておくわ」
そこでリッカも冷静になり出し、
「おい、ハヤタ、知り合いだったのか?」
当然、ハヤタは知るわけがなく。
「いや、ワケがわからない…」
と答えるしかなかった。
そうしてハヤタは、指定された範囲の掃除を済ませて、ミミミツ達に報告を済ませるのであった。
「さすがです。
ハヤタ様」
「な、なかなか、やるではないか?」
ミミミツは報告を疑いもするが、この時間帯でいるであろう『生徒』がいないのだから。
狙いどおりにならなかった事に、難癖を付けようがなかった。