第十六話
「ハヤタ様~」
翌日、ナタルが手を振って出迎えてくれた。
「おはようございます」
「ああ、おはよう…」
ハヤタは挨拶をするが、早朝のため思わずあくびしてしまう。
「はい、ハヤタ様も凄い大あくびです」
ナタルの笑顔に思わず照れてしまう。
そんな中を遮るようにミミミツは言う。
「よくも逃げずにやって来たな?」
相変わらずの態度なので、黙っているとミミミツは続けた。
「今日は生徒会、そして、生徒会室を案内してやる」
「そりゃ、どうも…」
「そうか、ありがたくしておくのだな。
それから本格的な仕事に移るのは、放課後だ」
「は、放課後、いきなりか!?」
その反応にミミミツは、いやらしい笑みを見せた。
「なんだ、いやなのか?
だったら、やめておくか?
別に止めはしない。
所詮、劣等種には勤まらなかったという事だ」
どうやら自分の反応は、予想されていたらしく、ハヤタにとって癪に障るので、
「じゃあ、ナタル、生徒会室ってどこにあるんだ?」
とりあえず無視をした。
「な、貴様、無視をするな!?」
そして、案内されたのだが…。
「やっぱりな…」
「どうしました、ハヤタ様?」
ナタルはきょとんと首を傾けていたが、ハヤタは何となくこのミミミツが何やら企んでいるのを感じて、嫌でも落胆を感じたのも無理も無かった。
そして…放課後…。
さらにハヤタは驚く事になる。
「意外とまともだ…」
ミミミツが与えた仕事というのは、指定された階の教室や廊下を掃除をするという事だった。
「というか、リッカも生徒会の一員だったんだな?
てっきり一級の人等か、あんなヤツらが生徒会をやってるモンだと思ってた」
「この通り、アタシは頭も良い方じゃないんでね。
学園活動をしてれば、赤点免除になるんだよ。
そんな考えで参加してるのが、何人かいるんだ。
一握りではあるけどな」
「一握りね。
あれ…?」
思わずハヤタは疑問に思いもした。
「そういえば、生徒会のメンバーにしては人数が少ないような…」
「まあな、それがその一握りだろうな。
『格上げ』だって狙ってるヤツもいるだろうし、お前みたいな劣等種を嫌っているのもいるよ」
ここまで来ると、ハヤタも何かしら察する事もあった。
「という事は、この任務もミミミツは、何かしら企んでいるって事だろうな」
…その通り、ミミミツにとって狙いがあった。
「私もハヤタ様も、一緒にお掃除をしたかったのですが…」
「ナタルさん、そう言わないでください。
これは彼の素行テストなのですから…」
そんな兄の対応に呆れて見せたのは、ミミミの方だった。
『また』この兄はやったのだ。
「確かにナタルさんの推薦もあります。
ですが、やはり肝心なのは真面目に取り組んでくれるのかですよ。
ですから、これはテストなのです」
「はあ、テストですか…」
といえば聞こえは良いのだろう。
口八丁手八丁、言い続ければ、この兄は嫌な笑みを浮かべる。
その通り…。
気に入らない人は徹底的に排除するのが、この兄なのだ。
つまり、これは『選別』だった。
「ご愁傷様な事…」
そんなやりとりも知らないハヤタは…。
「あ、ハヤタじゃねえか、どうしたんだよ?」
同じように掃除用具を持っていたパンチと合流していた。
「生徒会の仕事でさ、掃除をしろってな」
そういえば、このサル顔のパンチも、その学園の掃除が職業だと聞いた事があるのを思い出しながら、教室をみると…。
「……」
ミミミツの狙いが読めたような気がした。
「なあ、パンチ、どこにでもいるんだな?」
「何がだよ…?
ああ…」
曖昧な発言だったためか、パンチは一旦、聞き直そうとするが何となく感づいた。
人を見かけで判断してはいけない。
オオカミ男のクオウにしかり、身長三メートル越えのリッカにしかり、このサル顔のパンチにしても…。
他の惑星に来たのなら、それはなおさらな話なのだが…。
だが、どんな環境においても、似通った予感が漂って来るモノで、ハヤタの表情が曇る。
「ま、まあ、放課後なんてさ、どこの惑星も、こんなモンなんじゃねえの?」
そういうパンチとハヤタは意気投合して、
「……」
その区画だけを、避けるように通り過ぎようとする。
「……」
当然、リッカの冷たい視線がある。
「だって、なあ、パンチ君」
「そうだよなあ、ハヤタ君」
『危険な場所には近寄らないのは、基本だよな?』
「ユニゾンしてて、恥ずかしくないのか?」
リッカの呆れるような指摘があったのか、当然、強い口調が飛ぶ。
「おい、お前等、ちと待てや…」