第十一話
ミミミに睨まれた、その所為ではないのだが、ハヤタの顔は少し曇っていたのに、ナタルは気づく。
「どうかしました、ハヤタ様?」
「いや、これからみんなで昼食をとるわけだが…」
食堂全体を眺めて言う。
「二人の口に合うのかと思えばな。
券売機を見る限り、一級と違うかもしれないからさ」
「いいえ、そんな事は気にしないでください」
そう、ナタルはクビを振るが、ミミミはそうはいかない。
「そうね、私の口に合うかしら?」
案の定、嫌味を含ませ、周囲を不快にさせていた。
「でも、ミミミ、みなさまの食事は、こちら側と一緒でございますよ?」
「えっ!?」
ミミミの驚く表情を見せるが、ナタルのVRは解析機能も付いているのだろう。
「あっ、俺、一級の食堂の清掃員だから知ってるけど、一緒だと思うぞ?」
パンチの余計な一言が、ミミミに釘を刺した。
「ま、まあ、そんな事を学生身分で、し、指摘をするのは間違っているわよね」
思わず噴き出してしまいそうになるが、そんな事をすれば怒らせてしまいそうなので、ハヤタは話を進めた。
「とりあえず、並ぶか?」
そして、昼食が始まった。
「ハヤタ様、こちらの生活はどうですか?」
「まだ、慣れてない事が多い、はっきり言って大変だな」
「どういうトコが大変なのよ?」
「風呂の準備とか、実際、マニュアルをずっとにらめっこしてるような状態だって言えばわかるか?」
「そんなのボタン『ピピピッ』で済むだろう」
「そうはいかんのよ…」
パンチとの会話を身振り手振りの仕草で話していると、ナタルが微笑んでいたので、ハヤタも聞いてみた。
「ナタルはどうなんだ。
視力が補えると言っても、大変だろ?」
「こちらも『何とか』です。
ミミミも手伝ってくれてますから」
ナタルはミミミに微笑み掛けるが、やはり聞いて来た。
「ですけど、ハヤタ様もここに入学して来るなんて思いもしませんでした」
「通常もそうなんだろうけど、労働に勤しむのが普通らしいからな。
『学歴を取得しとくのは大事だ』って、言われて学校に行くことになるなんて、思いもしなかったな」
するとパンチは疑問に思ったのだろう。
「あれ、お前、学費はどうしてるんだ?」
「だから、そう言った人が学費を出してくれてるんだ。
入学金から、卒業までの学費をな」
「おいおい、学費なんて…。
いくら、ここに来て間もないお前でも、結構な金額だって知ってるだろ?
そんなのを丸々出すなんて、どんな奇特なヤツなんだよ?」
当然、ハヤタがパンチに、ため息をついて答えるのは意味合いがあっての事だった。
「クオウさんだよ」
『ガタッ』
と驚くのは、パンチだけでなく、ミミミもである。
「うん、一応。
その反応は、パンチに期待したんだが…。
ミミミも驚くって事は、あの人、相当な人らしいな?」
「あのクオウさんって、誰なんです?」
何も知らないのはナタルだけだったらしい。
「俺のおとなりだ。
だが、知ってる二人にも言っておくが、あの人、そこまで悪い人じゃないからな」
「ハヤタ、そうは言うけどさ。
月一か何回か、殴り合いの暴動が起きているだろうが?」
「そうね、このサル顔と同じ意見なのは気に入らないけど、毎回毎回、警察が出動する騒ぎになっているじゃない?」
さすがに隣人を勝手に酷く言うのは良くないので、
「うん…」
頷きながらハヤタは説明をする事にした。