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そもそも私は患者です  作者: 瀬嵐しるん


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2/4

そもそも料理は苦手です

初デート…いや、初カウンセリングの日。

待ち合わせた公園入口には、すでに彼が待っていた。

私を見つけて、手を振ってくれる。


「…かっこいいですね」

「お気遣い、ありがとうございます」

男性から私服を褒められることは、あまりないので驚いた。

社交辞令と思わなくもない。


「いや、本当に。女性の活動的な服装は好きなんです」


私が着ているのは、白いデニムのショート丈ジャケットとパンツ。

手持ちの中ではお洒落なはずだ。(当者比)


彼は柔らかそうなシャツに、オーバーサイズのカーディガン。

さらりと着こなして、よく似合っていた。


連れてきてもらったのは、職場の先輩も行ってみたいと口にしていたカフェ。

フルーツのタルトが評判らしい。

「わあ、美味しそうですね」

ショーケースには宝石箱みたいな、カラフルなタルトが並んでいた。


「これは…迷うな」

診察室では見なかった、真剣な眼差しでタルトを見つめるイケメン。

「甘いもの、お好きなんですね」


彼はハッとして、苦笑いした。

「…すみません。今日は話を聞いてもらうんだから、自分の好みを優先してる場合じゃなかった」

「いいじゃないですか。

好きなものを食べて、リラックスしましょう」


私も甘いものは嫌いじゃない。

1カットがそれなりに大きいタルトを四種類頼んでシェアすることにした。


「なかなか一人では、こういう店に入り辛くて。

カフェって言い出した母に感謝かな」

彼は嬉しそうに、美味しそうに食べている。


「もう、フルーツタルト・リフレッシュでいいんじゃないですか?」

「いや、一緒に来てもらったからこそのフルーツタルトなので…」

真面目だな。

「もう少し、楽にお話ししましょう」

「ああ、甘いものが嬉しくて本来の目的を忘れてました…」


肩の凝らない話をしながら、イケメンの奢りで、イケメンを鑑賞できる素晴らしい時間だな、と思っていたが邪魔が入った。


「…あのぉ」

テーブルの側に寄ってきた人物を見れば、二十歳そこそこに見える女の子が二人。

服装はゆるふわモテコーデとかいうやつだろう、たぶん。


「どうかしましたか?」

彼は柔らかい物言いながら、訝しげだった。


女の子は少し怯んだが、なんとか言葉を続けた。

「もし、よろしかったら、私たちとご一緒しませんか?」

後ろにいた、もう一人の子も「二対二で丁度いいし…」と呟いた。


彼ははっきりと迷惑そうな顔をした。

「悪いけど、大事な話をするので無理です」


「…そうですか。お邪魔してごめんなさい…」

そそくさと離れていくが、後ろにいた子は全然納得できない、という雰囲気だった。


「二対二で丁度いい、って何がだろう?」

彼は困惑していたが、私には見当がついた。


「…たぶん、私たちを男同士の二人組だと思ったんですよ」

「え? …まさか」


実はよく間違われるのだ。

髪は短く化粧っ気はなく、いつもパンツスタイル。

身体つきも、あまりデコボコしていない私は女性らしく見えないようだ。


「まあ、確かに貴女の顔はそこらのイケメンには負けないでしょうが…

男性には見えないと思うんですけど」


能力としての見る目もあるだろうが、普段目にしているものからの経験と思い込みで判断する人は多い。

もはや、間違われても気にしていなかった。

それに、昔からの知り合いは、私を女性と認識しながら女扱いしない。

私にとって、彼のスマートなエスコート振りは、むず痒いくらいなのだ。


「イケメンが二人で、タルトをシェアして仲良くつつきあってたら、声かけたくなる女の子がいるのも仕方ないかもですね」

と言うと「そんなものなんでしょうか?」と首を傾げた。


「男同士に間違われるくらいなら、もっと馬鹿話してもよさそうですね」

「…馬鹿話というと」

「本当に男性同士なら、エロ話かもしれませんが、出来ればそれ以外で」

彼は吹き出した。

幸い、食べてる最中ではなかった。


「女性から真顔でエロ話って言われるのは、新鮮です」

なんか、新しい扉開いたみたいな顔をしているが、たいしたこと言ってないんだけどな。


うん、実は男相手のエロ話も、そこそこ自信ある。

が、彼相手に披露したい特技ではなかった。


今日のお仕事はタルトを食べる、ではなくて彼の気分を上げる、だったのを思い出す。

うまく行ってるのかな、これ。



四種類目のタルトはチーズクリームが濃厚で美味しかった。

「このクリーム美味しいですね」

「いい材料使っているんでしょうね……そうだ、時間があるときに少し遠出しませんか」

「遠出ですか」

「山の方の牧場で、直売所とカフェをやっているところがあるんです」

「絶対、美味しいやつですね!」

「絶対、美味しいやつです!」

議案は満場一致で可決された。



食いしん坊の二人は、可及的速やかに休日をすり合わせた。

所長からお古のオフロード車を借り、彼を迎えに行った。

商店街で待っていた彼は、意外にも大荷物で…


荷物を積み込みながら、気付いてしまった。

「これ、もしかして、お弁当ですか?」

「はい。スイーツは現地調達ですけど、せっかくの遠出なので外で食べたくて」

「……」

「あ、もしかして、ご迷惑でしたか?」


そんなわけなかった。


「いえ、料理がお得意なんだなあ、と思って」

「両親とも忙しかったから、自分で作らないとろくなものが食べられなかったんです」

「なるほど」


これは、かなり期待できそうな感じだった。

うん、こっちの事情も言っておこう。


「私は下町育ちでして、まわりに安い食堂や屋台がたくさんあったんです」

「屋台か、いいですね」

「子供の頃は、近所で手伝いをして、お駄賃で買い食いしてました」

「それは、ちょっとうらやましい」

彼は笑顔になった。

「そんなわけで、料理苦手です! お弁当、楽しみです!」

ついに彼は笑い声をあげた。


目的地の牧場は人気らしく、思ったよりもお客さんが多かった。


カフェのテーブルは諦めて、生クリームたっぷりのクレープや一口大に切ってカップに積み上げたチーズケーキなどを買い込む。

少し離れた場所まで歩き、空いていた木陰のベンチに陣取った。


クレープもチーズケーキも、もちろん美味しかった。

だがしかし、先生のお弁当ときたら!

サンドイッチとから揚げとハンバーグとポテトサラダ。

定番かもしれないが、その分、味に実力差が出るのだ。

屋台の激戦区で鍛えられた私が言うのだから、間違いない。


美味しい、美味しいと次々食べる私に先生は

「残しても大丈夫だから、無理しないで」と言う。

全然、無理はしていないのだが…


「また、胃の調子を悪くしたら大変だ」

「いえ、あれは季節的なものですから…

普段は大食いなので、胃のせいで食べられないのは辛かったです」

「…あの時のカウンセリングでは明かされなかった事実だ。

僕もまだまだですね」

ハハハ、そーなんですよ。乙女の守秘義務ですよ。…乙女って何歳までだろう?


その後、日持ちのする瓶詰や焼き菓子などを売っている店に入ってみた。

丁度、さっき出したばかりだという、切り落としのカステラが目についた。

量が多く、かなりお買い得だ。


「先生、寄り道してもいいですか?

車で1時間ほど行くと、うちの設計事務所が関わっている堰の現場があるんです。

このカステラ、差し入れに良さそうなので」


野郎どもなので、質より量だった。

このカステラなら質もいいけど。

品出ししていたお店の人が試食品をくれたが、やっぱり美味しかった。


「川の上流? 行ってみたいな」


決まりだ。

買い占めるようにカステラを買うと、私たちは堰の工事現場に向けて出発した。


このところ晴天が続き、工事は順調だった。

おかげで、来客をかまう余裕も十分にあるようだ。

私たちは現場で大歓迎を受けた。


「なにぃ! ジェシカが男連れ、だと?」

作業員の親玉、現場班長が大声を上げた。

「しかも、イケメン、だと?」

副班長が続いた。


「班長に副班長、差し入れいらないのなら、持って帰りますけど?」

私はカステラの大袋を持ち上げて見せびらかした。


「お前ら、休憩だ。お客様を丁重におもてなししろ!」

強面の大の男が、お土産一つで手のひら返し。

情けないを通り越して、可愛いわ。


「うまい!」

「なにこれ!?」

「いや、カステラだろう…」

「老舗の名菓か?」

「牧場から買ってきた」

「牧場デートかよ!」


気心が知れた連中なので、実にやかましい茶会になった。


気安い会話にポカンとしていた先生が訊いてくる。

「よく、この現場に来るの?」

「来ますけど、ここの連中は仲間内なんです。

彼等も私も、今の仕事は臨時で…本職での仲間ですね」

「本職?」


その時、突然、ドカンという大きな音がした。

現場のほうからだ。

数人がすぐに走っていく。


「流木だ! 堰が壊れる!」

「上流で土砂崩れか?」

「この天気で!?」

「…あれ、見ろよ!」


堰にぶつかった何本もの木材が、河原に上がって来ようとしていた。

もちろん、木材は勝手に河原に上がらない。


「トレントだ…」



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