第4章
「しかし...寒い...」
「同じく...」
やっぱ寒い。春の季節になったとはいえ、まだ寒い季節だ。夜は冷える。
ホントにどうしよう...。
「あ、そうだ!」
と、突然タイセイが何か思いついたように叫んだ。というより、実際何か思いついたらしい。
「何をするの?」
と尋ねると、
「待ってて。え〜っと...」
と、何やらゴソゴソとバックの中を漁っている。やがて、「これこれ」と何かを探し当てた。なんか棒が付いた丸いガラスと、黒い布。
「何それ?」
「ただの黒い布と、俺のいた世界の道具。『虫眼鏡』だ」
「なんだ虫眼鏡か...」
「あ、こっちの世界にもあるのか...」
まあ、そりゃあね。形は違うけど。
「でもそんなもんでどうするのさ?」
「ふっふっふ。見てろよ」
そう言って黒い布の上に虫眼鏡をかざした。
「なあ、ルイ」
「なんですかタイセイさん?」
「白色の魔法が使えるならさ、光の魔法とか出せるか?太陽の光みたいなやつでいい」
「はい、出せますが...」
「なら、この虫眼鏡に当ててくれ」
「わかりました...」
と、困惑しながらもルイは魔法を使った。
「『フラッシュ』!」
と、眩い光が僕たちを照らした。同時に虫眼鏡に光が当たり、黒い布に一点の光が当たった。しばらくすると、
「なんか煙出てない...?」
「ホントですね。なんでしょう...?」
すると、ボッと火がついた。
「「うわあああ!?」」
「よぉし。ついたついた」
するとタイセイは手際よく布をあらかじめ用意していた薪に火をつけた。しばらくすると、火も大きくなり、しっかりとしたたき火となった。
「すごい...。タイセイのいた世界ではこうして火をつけるんですね...」
「いやこれはあくまでライターとかそういうのが無い時に使うっていうか...。まあ、いっか」
わいわいとタイセイとルイが話している一方、僕はというと、うっとりと火を眺めていた。
「どうした、マイラ?」
「いや、なんかいいなって思っちゃって...」
「何がですか?」
「この雰囲気というか、なんというか...。僕は学校じゃ、馬鹿にされてたから、こうして仲間同士でたき火なんてしてこなかったし。純粋に嬉しいって思っちゃって...」
「そうか。というか、俺たちって仲間とかじゃなくね?」
「え...?」
「友だちだろ?」
一瞬ポカンとしてしまった。いやこの表現であってるのかわかんないけど、とにかくポカンとしてしまった。
でもじわじわと、嬉しさが込み上げてきた。やっぱ良い奴だよ。タイセイは。
「あ、あの...。私も、友だちでいいですか?」
と、ルイが聞く。
「もちろん。ていうか、これから出来る仲間は全員友だちって思っとこうぜ?」
「あ、ありがとうございます!」
涙目で感謝をするルイ。それに僕はちょっと笑いながら、
「友だちっていいな」
と、つぶやくのだった。
やがて夜も明け、僕たちは再び進み始めた。のだが...、
「...なんか変な声しないか?こう、叫び声みたいな」
「叫び声ですか...?あ、でも確かに聞こえるような...?」
確かに聞こえる。方角は...、
「屋敷の方から...?」
その声はどうやら目的地の所から聞こえるらしい。
「ねぇ2人とも、これって...」
と、後ろを振り向いた瞬間、2人は倒れていた。
「!?ちょ、2人とも!大丈夫!?」
慌てて駆け寄ってみると、2人は顔をしかめてうなっていた。
「だ、大丈夫...。ちょっと体調が良くないだけ...」
「私もです...」
と、親指をたてて力なくニコッとするルイ。反応を見る限り、死ぬほどの重症じゃなさそうだ。
でもこれって...。
「もしかして、マンドラゴラか...?」
さっきから聞こえてくる微かな声...。そこから2人の体調が崩れた。だとしたら合点がいく。
「あれ、でもなんで僕だけ大丈夫なの...?」
そこだけ謎だった。なんで僕には効かない...?
「あ、そういえば聞いたことあります。マンドラゴラの叫び声による効果は、マンドラゴラよりレベルの低い者にしか効かないって...」
なるほど。しかしこんなところでレベルMAXの恩恵を受けるとは...。
とりあえず、2人を引っ張り、声が聞こえないぐらいの所まで移動した。だいぶ体調も良くなったようだった。
「で、どうする?」
「どうするもこうも...。僕だけ大丈夫なら僕だけでも行かないと...」
「でもマイラさんはレベルMAXとはいえ、ステータスはレベル1と変わりません!マンドラゴラは本来レベル10以上の人が倒すクエストです!私だってまだレベル6。タイセイさんもレベル4なんですから3人で行った方がいいです!」
すごくハキハキと喋るルイ。ここまで言うってことは本気で心配してるってことなのだろう。
「とは言っても、どうするのさ?」
「そうなんだよなぁ...」
う〜んとみんな唸る。すると、
「じゃあ、これ使ってみるか?」
と、タイセイがあるものを取り出した。
「すごいです!全く何の音も聞こえません!」
「え?何て?なんて言った!?」
【2人とも、魔言板使いなよ...】
タイセイが取りだしたのは、タイセイがいた世界にある、超強力な耳栓だった。これが効果抜群で、付けると全然物音が聞こえない。
というか、タイセイホントなんでも持ってるな...。
まあ、それだと僕たちの話も聞こえないので、魔言板を渡してある。これは本来、遠くにいる人へ伝言を伝えるためのものなのだが、今回はこれに言いたいことを書いて会話ができるようにする。
【っと、着いたね】
【ここがマの館...】
相も変わらずマンドラゴラの叫び声は聞こえてくる。が、さすがに館の前とだけあって、叫び声もでかい。というか、金切り声である。
【とりあえず、中の様子を確認しよう】
【【ラジャー】】
と、中を確認しようとしたが、扉が重く開かなかった。なので、僕が窓から覗くことになった。
「『ズーム』」
この魔法は、遠くのものを見ることが出来る魔法。それゆえ今回のように、室内を確認するのにもちょうどいい魔法だ。
そうして覗いてみると...。
「...なんだこれ」
なんと、窓から確認できるだけでも、50本ほど、マンドラゴラが埋まってるでないか。しかも自力で抜け出し、歩いている。
【どうだった?】
【大変なことになってる】
【【?】】
という訳でこの屋敷内で起きてる事を伝えた。
【じゃあなんだ?マンドラゴラは自力で抜け出して叫びながら歩いてるのかよ?】
【さっきそう説明したんだけど...。まあいいや。とにかく、今のうちに屋敷ごと葬り去った方がいい】
【壊しちゃっていいんですか?】
【多分、大丈夫でしょ。古いし、神秘的な館として崇められてる訳でもないから】
誰も住んでないしね。と、つけ加えた。
【よし、じゃあ、とっととやっちまおう】
【でもどうやって?】
【1番は放火かなぁ...。ここら辺だったら、別に燃え移ってもどうにかできるし】
【でも館を燃やせる量の火を、誰も放てませんよ?】
【それが問題なんだ】
当然、みんな案は出てこなかった。と思ったが、すぐに案が出てきた。というか、僕が思いついた。
【タイセイ、虫眼鏡ある?】




