第2章
「では、タイセイさんのジョブはアーチャーということでよろしいですね?」
モグラーを退治した僕らは、1度キタノ街に戻ってきた。戻ってくる道中、僕らは様々な話をした。空から降ってきた彼は、ニホンというところから来た、コウコウセイという身分に属する人だという。名前を聞くと、『ナツモトタイセイ』という名前だと言った。カンジという字がニホンにあるらしく、それで書くと、『夏本大正』と書くらしい。ちなみにキュウドウブというグループにも入っていたらしく、弓を扱うことに関しては慣れてるそう。
対して僕も、自分の名前、そしてこの世界が何なのかとかを説明した。ちなみに僕がバグ持ちなのは伏せておいた。
「はい。お願いします」
と、若干緊張気味にタイセイは答えた。
「では、こちらがタイセイさんのジョブカードになります」
「ジョブカード?」
「ジョブカードは、その人がこういうジョブであるということを証明するカードです。このカードには、自分のレベル、覚えられる魔法などが記されております。これらを有効に使って、クエストを有利に進めてください」
「へぇ、こんな便利なカードがあるんだな。マイラも持ってるのか?」
「もちろん」
「じゃあ、見せてくれよ!」
と、食い気味に要求を言ってきたが、「後でね」とその場しのぎの返事をして、僕は本題を受付のお姉さんに話した。
「体長2mのモグラー...?」
「はい。僕が草原に行った時、そのモグラーと遭遇して...。なにかそんな情報あったりしませんか?」
「いえ、そのような情報は入っていません。それに、そんなモグラーがいると聞いたこともありません。本当なのですか?」
「本当です。その証拠に...これを」
と、自分のジョブカードを受付の人に見せた。そして、その時の戦いの映像が僕視点で映し出された。
「うおおお!?何これ!?」
「これはバトル・メモリーって言って、その時の戦いの様子を自分視点で映し出すことができる、ジョブカードの機能の1つだよ」
「そんな機能もあるんだ...」
と、驚きの声を漏らすタイセイ。
そして、映像を見終え、「なるほど」と受付のお姉さんは呟いた。心なしか顔つきが変わってた。マジかよって顔に。
「確かに事実のようです。それではこれを王都の方に提出致します。貴重な情報提供、感謝します」
と、真面目な返答をしてきたので、「眉間にシワよってると美人が台無しですよ」と言ったら、「お帰りください」とマジな顔で返された。
「しかしなんだったんだろうな。あのモグラーってやつ」
用事を済ませた僕らは、ギルドを去って、酒場に来ていた。ここは冒険者たちの憩いの場になっている。酒やおつまみ的な食べ物ももちろんあるが、普通の食事も飲み物も提供される。
「あそこまで大きいのは初めてだったから僕にも分からない」
「そうか...。しかしこの魔ガエルの唐揚げってやつ美味いな」
「ここの酒場の名物だからね。ニホンにはないの?」
「唐揚げはあるけどカエルの唐揚げはない。主に鳥肉を使うんだ」
「へぇ、鳥って食べられたんだ。鳥バトルとか偵察ぐらいの使い道しかないと思ってた」
「なんだ鳥バトルって」
「文字通り鳥同士を戦わせる競技だよ。どちらかの鳥がギブアップするか、体に穴が空いたら勝負が決まる」
「最後グロいな」
などと他愛もない話をする。タイセイと話している不思議と心地がいい。
「あ、そういえば」
と、タイセイが思い出したかのように声を上げ、
「見せてくれよ。マイラのジョブカード」
と、言ってきた。そういえばそんなことさっき言ってたような...。
いやいや待て。今これ見せたらレベルMAXだってことバレちゃう!言葉にするのは難しいけどとにかくめんどくさいことになりそうだから言わないでおいたのに...!というかやめてそんな期待を込めたキラキラした目でこっち見ないで!
しばらく無言の持久戦が続いたが、こういうのは弱いため、すぐに僕が折れ、見せることになった。そして、案の定、
「ええええええ!?レ、レベル99!?最強じゃん!!なんで隠してたんだよ!?」
「お、落ち着いて!話すから!これに関して話すからとりあえず落ち着いて!!」
と、しばらくタイセイがギャーギャーと騒いでいたが何とかなだめ、僕のレベルのことを話した。
「なるほどねぇ。バグのせいでレベルがMAXと。しかもステータスがレベル1と変わらないと」
「そういうこと。ごめんね。こっちに来て最初に会った人がこんなんで...」
「なんで謝んだよ。それに、レベルMAXのバグ持ちなんて希少価値高すぎだろ。お前の個性だし、胸張っていいんじゃねーの?」
「.......」
初めてだった。そういう風に言ってくれる人は。この人もしかして...。
「タイセイって、実はいい人?」
「今気づいたのかよ。俺は超が付くほどの善人だぜ?」
「...ふふ」
「おい何笑ってんだよ」
「いやごめん。なんか面白くって...ふふ」
「笑うなっての」
「タイセイも笑ってるじゃん」
「うるせっ」
それからしばらくニヤけてた僕らだったけど、結局堪えられず笑いあった。こんなに笑ったのは久しぶりだなぁと、そう思った。
ちなみにパーティーが結成された瞬間がこの時だった。
それからしばらくして酒場を去り、僕らはまたタースト高原に来ていた。理由はもちろんクエストの続きだ。
「しかし、受付の人もいじわるだよな。あんなでっかいモグラー倒したのに1匹しか倒したことにならないなんてよ」
「まあ、実際1匹しか倒してないし、しょうがないよ」
「そうだけどよぉ...」
「まあまあ。あ、タイセイ。あそこ見て」
「ん?どこ?」
と、僕が指を指した先に、モグラーが2匹ほど顔を出していた。
「狩の時間だ」
「弓矢舌で舐めるのやめて。そんでタイセイ、ろくな装備してないのにモグラーを狩るのは一苦労だよ?」
「そうなのか?」
「少なくとも盾は用意しといた方がいいよ。つめとかとか鋭くて切られるから」
「嘘だろ...。ねえ、マイラくん。か弱い僕を守って...?」
「バグ持ちに期待しないで」
と、緊張感のない話をする。まあ、相手がモグラーだし。
「じゃ、いきますか」
「そうだね」
と、軽くハイタッチをしてモグラーに攻撃を仕掛けた。
その後、特に問題もなくモグラーを4体討伐した僕たちは街に戻ってきた。
「お疲れ様でした!モグラー5体討伐クエストクリアです!こちら報酬の10Gです!お受け取りください!」
と、さっきの険しい顔はどこへやら、受付のお姉さんは笑顔で対応してくれた。
「なぁんかすごい笑顔だったな。あれ絶対なんか隠してると俺思うんだけど」
「まさか。営業スマイルだと思うよ僕は」
「そうかぁ?まあいいや。ところでこの国の通貨ってゴールドだけ?」
「そうだよ。この国で1番安いものがりんごなんだけど、それが1Gで1個買える」
「てことは1G=100円ってことなのか...」
と、通貨のことも話したことでこの世界のことをだいたい理解したのか、何度か頷き、
「じゃ、お前ん家泊めて」
と、いきなりそんなことを言ってきた。




