第1章
この世界には、モンスターがいる。魔女もいる。エルフもドワーフも、魔王だっている。もちろん人間も。けれども、みんな争いはしない。みんな平和に暮らしてる。
あの日までは。ある日を境に、国王と魔王が対立してしまった。理由はわかっていない。領土を巡ってか、国の主導権を巡ってか、とにかくすごい理由で争いが起きたと人々は噂した。というか、そういう理由しか考えられない。
そして、国王に付きたいと思った者が、国王軍。魔王に付きたいと思った者が魔王軍となった。つまり、色んな種族の混成部隊同士で戦うことになったが、国王軍のほとんどは人間で、魔王軍のほとんどはモンスターだった。そしてそれが、500年続いているー。
「というのが、この世界の最近の歴史だ」
と、御歳196歳の魔法使い教師が僕らに向けてそう言った。ちなみにみんな午後の授業なので少し眠たそうだった。
そんな中、
「せんせー。そろそろレベルのことについて教えてくださーい」
と、手を挙げて発言するやつが1人。それと同時に何人かがクスクスと笑い声をあげた。その瞬間、僕は一気に憂鬱になる。こいつらホント嫌いだ。
はぁっと、ため息混じりに先生が、いいでしょうと言い、レベルのことについて教え始めた。
「この世界では、全ての種族において、レベルというのが存在する。レベルは、相手を倒すと、その生命力や、その者の経験値を吸収し、レベルが上がる。最大レベルはどの種族でも、99が最大だ。もちろん、レベル99が最も強い。ちなみにレベルが上がると同時にステータスも上がる。ステータスはそれぞれ、魔力、攻撃力、防御力、速力、運で構成されている。当然、レベルが高いほどステータスも高くなる。...これでいいか?」
「聞いたか?レベル99が1番強いんだとよ!なのにマイル!お前なんで最大レベルなのにこんなにも弱いんだよ!」
その発言と同時に教室内でどっと笑いが起きた。いつもの事だ。慣れている。でもやっぱり気分は悪い。
そう。僕、マイラ・クリスタルは、産まれた時からレベルが最大。つまりレベル99だったのだ。みんなは最初レベル1、まれにレベル2の状態で産まれてくる。
それなら産まれた時から最強だと思うが、僕はステータスがレベル1と変わらないのだ。魔力も、攻撃力も、防御力も。
病院の先生は、神が意図せぬ行為と診断した。結果、僕は笑い者になってしまった。こんな感じに。
それから時は過ぎ、僕たちにも卒業の季節がやってきた。今までの学校生活を振り返ってみると、我ながらよく耐えてきたなと思う。まあこれで、こいつらともあまり会うこともないだろう。このクラスの大半は王都に行くからね。パーティーに入るやつとかパーティー作るやつとかいるし。
「なあ、マイラ。お前これからどうすんだよ?」
と、隣のやつが小声でそう聞いてきた。
「どっか適当なパーティーに入るか、パーティーを作るよ」
「大丈夫なの?」
「大丈夫だよ」
全然大丈夫じゃないけど。
その後、そいつがしゃべりかけることはなかった。
無事に式も終わり、家路を辿っていたが、ふと、花屋の花が目に入り、何本か花を買って、ある場所に向かった。
「父さん。母さん。僕卒業したよ」
そう言って、両親の墓に花を置いた。
僕の両親は、僕が産まれてまもなくこの世を去った。母さんは僕を産んですぐに。父さんは森の探索中、魔獣に喰われた。顔は当然覚えていない。親戚のおじさんとおばさんの家に引き取られてから、よく両親の思い出話を聞かせてくれた。話を聞く限りだと、ごく普通の、ありふれた両親だったらしい。けれども、それでも会ってみたかったと、今でも思う。
そうして家に帰り、ご飯を食べ、ベットに潜り込んだ。
『明日からどうしよう』って考えながらー。
翌日。僕はギルドにいた。
ここでは色んなジョブに転職し、カードを発行してもらう。このカードが、自分がこういったジョブについているという証明になる。
そして、僕の順番がきた。
「では、ジョブは冒険者ということでよろしいでしょうか?」
と、怪訝そうに受け付けのお姉さんは言った。
そりゃそうだ。この街でも有名な最強に見えて最弱なやつが冒険者やるんだ。無謀としか思えない。
それでも僕は冒険者をやりたかった。小さい頃からの夢にチャレンジしないでどうしろというのだ。だから僕は胸を張って、
「はい。お願いします」
と言った。
冒険者の登録も済み、簡単なクエストを受け、街を出てすぐのタースト草原に来ていた。腰に短剣。左腕に盾。背中に弓矢一式という姿で。いずれもコツコツ貯めてきた小遣いで買ったものだ。
ここは、ここらの初心者がよくクエストを受けた時に来る場所だ。今僕しかいないけど。
ちなみにクエストの内容は、もぐら型モンスター、『モグラー』を5匹討伐することだ。モグラーはいわゆる、初心者向けモンスターと言える存在だ。
とまぁ、クエスト内容をざっと思い返し、僕はクエストクリアするため歩き始めた。
そして、
「...どゆこと?」
と、思わず呟いた。1匹もいないのだ。モグラーが。いつもなら地面から5、6匹顔出しててもいいはずなんだが。
...まあ、こういう日もあるかと思いようにした。僕、学者でもないし。
そうして街へ戻ろうとしたその時。
「...ん?」
モリっと地面が浮き上がった感じがした。そして次の瞬間。
「うああぁあああぁああ!?」
ドコーンという音と共に、そいつは姿を現した。全長2mはあるモグラーが。
予想もしてなかったことに思わず僕は、
「...え?」
と声をもらした。
そりゃそうだ。だってモグラーって大きくても30cmしかないんだもん。
まあ、なんにせよとりあえず僕が今取るべき行動は...。
「あああぁぁあぁああ!」
逃げることだった。当然、獲物を見つけたモグラーも逃がすまいと思うわけで、全力で追いかけてきた。
てかめっちゃモグラー速いんだけど!?ヤバいヤバい追いつかれる!
「こうなったら...!」
一か八かだ。
腹を括り、モグラーに向き合い、数少ない魔力を手に込めた。そして、照準を定め、叫ぶ。くらえ初級炎魔法...!
「ファイアああぁあぁああ!」
すると、手のひらから勢いよく炎の玉が放たれた。そしてそれはモグラーへと向かっていき...!
「...え?」
弾かれた。
「モグウウゥゥウウゥウウ!」
「うわああああああああ!」
そして再びダッシュ。しかしさっきよりも距離が近いのですぐ追いつかれるのは確定しているわけで。いわゆる詰んだという状況だった。
終わった。父さん、母さん、おじさん、おばさん。ごめん。
その時。
「あああああああああああ」
「!?」
どこからか叫び声が聞こえた。
え?どこから?見渡しても叫んでるやついないけど?右いない左いない。下から声がするという訳でもないし、上...。
「...ん?」
「ああああああああああああ」
え、なんか降ってくる...。
そう思った瞬間、その何かはモグラーの頭に激突した。
「いってぇ...」
その何かは人だった。
えっとこれは...?ほうきから落ちたのか?いやでもそれにしちゃ魔法使いって格好じゃないし...。
「えと...大丈夫...?」
とりあえず声をかけておいた。
「あ、うん何とか...。このデカいクッションか?それがあって...ってこれ何!?」
「何って...モグラーだけど?」
「へ?もぐら!?デカくね!?」
「いやまあ、このサイズを見るのは僕も初めてだけど...」
「そ、そうなのか...。てかここどこ?」
「どこって...タースト草原」
「たーすと...?聞いた事ねぇな...。アメリカとかフランスとかかここ?」
あめりか?ふらんす?なんのこっちゃ?微妙に会話が噛み合ってない気がする...。
「えっと、君はどこから来たの?」
「ん?日本だけど?」
「ニホン...?どこそれ...?」
「へ!?日本知んねぇの!?」
「聞いたことも無いけど...。ここはテセウス国の端っこにあるキタノ街に1番近い草原のタースト草原だよ?」
「はぁ?どこだよそれ?それこそ聞いた事ないぞ?」
「え...?」
ホントに混乱してきた...。つまりこの人は僕が知らないところから来たってことなのか...?
などと考えていると、
「...なあ、これ今動かなかったか?」
「ん?」
見ると、モグラーが目を覚ましたようだった。ゆっくりとその巨体を動かし始める。
「...これ逃げた方がいい?」
「その方がいい」
という訳で再びダッシュ。さっきこの人がぶつかった(頭突きの方が正しいかな?)影響か、さっきより明らかに殺気立っていた。
「なあ、こっからこれどうすればいいんだ!?」
「知らないよ!僕だってこのサイズ初めてなんだし!」
「だァもう埒が明かない!おい!その弓矢よこせ!」
「へ!?この状況で弓撃つの!?」
「どんな生物でも脳天ぶち抜けばどうにかなるだろ?いいから貸せって!」
「...わかった。じゃあ、絶対成功させてくれ!俺も力貸すから!」
「もちろんだ!」
そう作戦を立て、一同モグラーに向かい合い、僕はこの人に弓矢を渡した。そして、
「おい、何してるんだ?」
「矢の先に火を付ける。多少攻撃力は上がると思うから」
なけなしの魔法だけどね。
「OK。確かにその方がダメージは大きそうだ」
そして、火が灯る。
「どうやって着火した!?」
「魔法だけど?」
「いやいや魔法て!ファンタジーじゃあるまいし!」
「何言ってんの?この世界じゃ魔法使える人なんてごまんといるよ?」
「えええええええ!?」
「いいから撃ってくれ!チャンスは1回しかないんだ!」
「わ、わかった!後できっちり聞くからな!」
そう言うと、その人はモグラーの脳天に狙いを定め、矢を放った。
頼む!行ってくれ...!
しかし、モグラーの反射速度も速いようで、すぐさま矢を右手で止めようとしていた。
ダメか...。
が、その矢は奇跡的に指と指の間をすり抜け...、
「モグゥウウウウゥウゥウ!」
見事命中し、倒れた。
「...やったのか?」
「生命力が感じられない...」
「てことは...」
「僕たち...」
「「やったああああああああ!!」」
文字通り、僕たちは飛び上がって喜んだ。ジャンプしてハイタッチまでして。
他の人に比べれば、なんてことない討伐なんだろうけど、僕はこの日を忘れないだろうと、そう思った今日この頃だった。