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しゃぼん玉

 ぱちんと消えてしまえたら楽なのだと思います。しゃぼん玉みたいに、ぱちんって、消えてしまえればよかったんです。でも、人間というのは、厄介ですね、ぱちんと消えることはできないし、消えようと思ったら、身体を燃してもらって、骨を砕いてもらって、そういうことをしてもらったって、灰が残ってしまうんです。この世に産まれた時点で、完全に消えるなんて、無理なんですよ。僕は、しゃぼん玉になりたい。一瞬だけ産まれて、すぐ消える、そんなものになりたかった。死にたい、とは、少し違う気がするんです。なんだか自分がとてつもなく汚いものに見えるんです。自分の手にべっとりとへどろがこびりついているような気がしてやみません。自分から吐き出される言葉が全て聞くに堪えない醜悪なものであるような気がします。相手からの言葉が全て自分を糾弾する言葉に聞こえて仕方がありません。僕は病気なのでしょうか。でも、僕の考えていることが幻覚だと、幻影だと、いったい誰が証明してくれるのでしょう。僕の考えていることを否定してくれる人が、嘘を吐いていないとどうして証明できるのでしょう。もう、僕は、疲れました。毎日頭が痛いです。毎日頭の中が煩いです。僕はちゃんとしゃべれていますか? 僕はちゃんと動けていますか? 何か人と違うところはありますか? でも、違ったところで、教えてもらったところで、きっと僕はもうそれを矯正する力を持たないんです。それには年を取り過ぎました。ならば普通の人のふりをすればいいのでしょうけれど、普通っていったいなんなのかしら。僕には分かりません。最近、腕を切っても何も解決しないんです。昔はそれで解決していたのに。自分の腕から血が出ると、痛くて、痛くて、でも、安心するんです。僕はきっと産まれてきてはいけない人間でしたのに悠々と生きていて、それを誰も叱ってくれないから、自分で叱るんです。痛くするんです。そうすると、罰を受けているから、生きていていい気がするんです。あれ、でも、僕って、消えたいんじゃなかったっけ。もう、自分がよく分かりません。僕は生きたいんでしょうか。消えたいんでしょうか。でも、誰かを不快にさせたり、誰かに迷惑をかけるくらいなら、死んでしまいたいんです。消えてしまいたいんです。もう、誰を不快にさせたとか、迷惑をかけたとか、そういう風に考えることが、嫌なんです。疲れたとか、そんなんじゃありません。ただ、漠然と、ああ、死ななきゃなあと思うわけです。死にたいなあ、消えたいなあ。涙は出ません。なんででしょうね。不思議なもんです。ただ、死ぬ勇気が出たら、なるべく、飛び降り自殺をしたいと思っているんです。地面にたたきつけられるまでの四秒間で、なんだか全ての罪が許される気がするんです。もちろん、気がするだけです。きっと天国も地獄もなくて、死んだら人は土に還るだけですけれど、でも、だとしたら誰も僕のことを断罪してくれないわけですから、自分で自分を裁くしかなくって、だとしたら、地面にたたきつけられるまでの四秒間って、ぴったりなんじゃないかしら。ぱちんと消えることはできないけれど、ぺしゃんと潰れることはできるんじゃないか、って、思うんです。そうしたら、きっと、僕は、今度こそ、ちゃんと息ができるようになる気が、するんです。早く、ちゃんと、息がしたいな。貴方も、そうは、思いませんか?

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