光×燦然
理解する。これは夢だ。
同時に、一気に意識が引きはがされていく。
柔らかで温かい布の感触…
んっ…
夢と現の間。
朧げな意識の中で玄関が無造作に閉められる音がする。
ドタドタと一階を徘徊する小さな侵略者の足音が聞こえる。
「にいちゃーん!!」
その呼び声に、私の意識は覚醒した。
直後、予想通りにドタドタと階段を上る音が聞こえ…バンッ!
「にいちゃん!って…まだ寝てんのか?」
「寝てると思うなら大声で叫ばない。バタバタしないの…」
ベッドでうつ伏せになり、枕に顔を埋めたままモゴモゴと抗議する。
侵入者、もといお隣さんの幼馴染、一の方へ顔だけ向ける。
中学二年生になるにもかかわらず、この落ち着きのなさは如何なものか…
と、年上として悩まずにはいられない。
「ねえねえ、お昼くらいの時のさ、あれ、にいちゃんも聞いた?」
「あぁ、母さんを送ってった先でね。なんか…むしろ気味が悪かったというか…」
「そのことなんだけど…」
珍しく言い澱む彼女に、私は不安に…
「オレ、輝いてるかなっ!?」
ならなかった。一はキラキラした顔で、私を見ている。
「いや、一はいつもなんかこう…エネルギッシュな感じだよね?まぁキラキラしてると思うよ?」
「違うったらぁ〜!そんなビミョーな顔で見ないでくれよー!」
床を転げ回って喚く一の声を聞き流しながら、うたた寝で崩れた身だしなみを整える。
私の準備完了を見届けると、一はちょこんと可愛く正座し直し、喚いた内容をまとめてくれる。
「だから!あれを聞いてから文字が頭から離れないの!」
つっ…あ?
その声の音を、その言葉の意味として頭が処理したその瞬間、頭の中で緑色の光が弾けた。
強烈なその光は私を真っ白にし、立ち上がりかけていた体がベッドに沈む。
やがて収束した光は、「變」という文字を浮かび上がらせて静止した。
「あ、今?今なのにいちゃん。」
布団に沈む私をのぞき込んで、うきうきとしたように一が言う。
「なんだこれ…なんて漢字だ…」
光から逃れた私は、「變」という漢字が思考の端に必ずちらつくことに違和感を覚えながら応える。
「これは…かなり不思議な感じだ…」
「気持ち悪いって程じゃないけど、常に気になるなぁ…」
漢字と感じでかけてるの?ねえねぇ。などと一人で腹を抱える一は放置する。
「とりあえずおやつ作って食べながら、拓兄に相談するかぁー?」
「おやつ!今日はケーキ?クッキー?ゼリー?オレ紅茶よりもジュースがいいなぁ!」
時計をちらりと確認し、いまだ14時であることを確認して一人ごちる私に、一は己の欲望のすべてをさらけ出す。早速作るおやつのレシピと材料を呟きながら一階の台所へ向かう。
もちろん、味見役というおこぼれ目当てではあるものの、一人で楽しそうに話しながら一も手伝うためについてくる。
私は大の紅茶好きで、事実この家には紅茶専用の大きな棚いっぱいに様々な種類の紅茶が詰まっている。
兄と母が珈琲派な為、珈琲豆用の棚もまた別にある。
合わせて出すおやつや天気、気分体調によって様々な紅茶や珈琲を振る舞うわけなのだが…
一は紅茶よりもジュースの方がお好みだ。
無論、お隣さんかつ家同士の付き合いが深いので、家には一の為にジュースが備蓄されている。
幼いころはやんちゃで男勝りな"兄弟"であったが、今ではやんちゃな"姉妹"である。
言動だけでいえば私もまだまだ男勝りだよなぁと思いながら、腰まで伸ばした髪を手早く結う。
エプロンをつけ、手を洗い、一に指示を出し、おやつのゼリーを作り始めた。
【蜜柑と牛乳の二色寒天】
下層になる牛乳寒天、上層の蜜柑寒天の順に作る。
牛乳寒天
・牛乳 550cc
・粉寒天4g
・砂糖 60g
①鍋に粉寒天と砂糖、牛乳少量を入れて混ぜる
寒天が溶けたら残りの牛乳も加えて混ぜる
②中火で混ぜながら加熱し、ふつふつしたら、その状態で1分程加熱
※吹きこぼさないようにする!
③粗熱を取って容器に流し、冷蔵庫で冷やす
蜜柑寒天
・蜜柑缶詰の中身 たっぷり
・蜜柑缶詰の液 300cc
・粉寒天 3g
・砂糖 大さじ1
①鍋に粉寒天と砂糖、蜜柑缶詰の液を入れて混ぜる
寒天が溶けたら蜜柑缶詰の中身を少し加えて混ぜる
※ちょっと実を崩すように混ぜる!
②弱火で混ぜながら加熱し、ふつふつ沸騰したら火からおろす
③牛乳寒天が固まっていたら、残りの蜜柑缶詰の中身を盛る
④蜜柑液の粗熱が取れていたら牛乳寒天の上に流し込み、冷蔵庫に入れる
⑤固まったら出来上がり!