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突然×異

誰かなんて、何かなんて、どうでもいいんだよ。

だって××には関係ないんだもの。

楽しいのがいいんだよ。


新しきを糧に古きが生き

古きを糧に新しきが生き


バランスって大事なんだよ。

あ、そろそろ行かなくちゃ。


搾取され続ける可能性を

閉じ込められた面白さを

ぶっこわしてぶっ飛ばして粉々にして…


ふふっ…ふふふふふ…


シュバッ


小気味のいい音と共に某サイダー飲料のフタを開けた。

コンビニで買ってきたばかりのペットボトルはキンキンに冷えていて、夏のうだるような暑さの中では格別だ。グラスに氷を入れて、透明な液体を注ぎ、白い泡と弾ける炭酸を眺めながら飲みたいのだが、今はそうもいっていられない。

一口、二口、三口。ぷはーっ!ぅっプ…


炭酸の一気飲みはこれが限界。炭酸が喉を刺激し、胃に流れ込んで圧迫する。

しかし冷えてパチパチとした液体が体の中に流れていくのがなんとも心地よい。

普段は紅茶とケーキを嗜むお茶好きな私が、なぜ珍しく炭酸など飲んでいるのか。


未だ激しく鼓動する心臓に酸素を送り込みながら、先程の出来事について考え込む。


────────────────



今朝


せっかくの土曜日だ。学生なら誰もが昼前までベッドでゴロゴロしているだろう。かくいう私もそうしていた。がしかし、2週間に1度帰ってくるかという母親が、この時この休日に襲来した。

別に仲が悪いわけではない。殆ど顔を合わせない分、むしろとても仲が良いと言っていい。


母親は直ぐにまたいなくなる、と言いながら、やれ友人は恋人はだの茶化して来て仕方ない。

適当に相槌を打って会話に付き合いつつ、支度の済んだ母親を電車を乗り継いでオフィス街までお送りした。


せっかく来たのだから、と私は昼時のオフィス街をお散歩する。

休日とはいえ、働く会社員はお昼ご飯タイムだ。

ふらりと寄った公園では弁当やらパンやらを、暑くて動きにくそうなスーツで黙々と食べてい…たりぼーっとしてたりなんやり。いやー。いろんな人がいるなー。


ジーパンにTシャツ、高校生かぁーというセンスの悪さ…はさておいて、私服なんて着ているのは私ぐらいではなかろうか。そんなことを考えながら、濡れるのも気にせずに公園の噴水の淵に腰をかけ、周囲の雑談を聞き流す。


上司部下同僚仕事量云々カンヌンの…

あぁー…ずっと学生がいいー…


『飽きた』


唐突にそんな声が降ってきた。


まるで空のはるかかなたから響くように。

耳元で囁やかれたかのように。

文字で頭を殴打されたかのように。


ありえない…

眉をひそめながら、周囲で戸惑う会社員たちの怪訝そうな言動を眺める。誰の、何の、音で声で、何が………こんなことはありえない。頭が真っ白になる。


『つまらない。せっかく手間暇かけて作ったのに。』

『そろそろ捨てるか…?』

『いや、前に面白かったやつをもう一回やろう。』

『子供達に新しい可能性の鍵を渡そう。』

『また面白くなるといいなぁ…』


頭がガンガンし、手が震える。

会社員たちは混乱し、公園や道にどこからきたのかどんどんと大人が増えていく。

あぁ…これは興奮だ。

頭の良くない私には、学力評価の世界はお世辞にも楽しいとは言い難い。

“日常”に訪れた、わけのわからない“非日常”のひと時がこんなにも私を興奮させている。


子供のような抑揚の声は、無邪気な文言を紡ぎ続ける。

『えっと、どうしよう。ちゃんと決めておかなきゃいけないね。』

『18歳以下の子供達に、文字を一つあげよう。』

『誰一人として同じ文字はなく、全員がその文字に従うんだよ。』

『さぁ、ここからは君達次第だ。』


私から見える範囲の人間全員がポカンとしていた。

そのままフリーズする人

何事もなかったかのように過ごす人

周りを見渡しておどおどする人

戸惑いと怯えで周囲の人を捕まえては喚き散らす人


私はちょうど18歳。

誠に遺憾だが、自他共に認める童顔で、そしてここは昼のオフィス街。周囲の視線が徐々に私に集まり始める。

好奇、畏怖、奇異…

様々な感情を込めた対の目が私を見る。

視線が痛い。居たたまれない。

冷たい汗が目尻を伝って頬に流れる。


はぁっ!はぁー!はぁっはっ!


久々の全力ダッシュ…

誰も私を追う事など無かったが、あんな衆目の前に一人立つのは心に悪い。

アイドルなんかはいつもこんな感じなのか…などと、余計な思考をめぐらせながら、駅の入り口で呼吸を整える。

どうやら駅は休日を満喫する家族連れなどが行き交い、平常運転に戻ったようだ。


私は近くのコンビニでサイダーを購入して堪能すると、再び電車を乗り継いで帰宅した。

玄関で靴を脱ぎ捨て、自室…いや、洗面所に。

冷水で顔を流してタオルで拭う。


腰に巻いたポシェットに突っ込んだサイダーを取り出す。

温くなったサイダーはもう飲む気にはならない。

容赦なく流して捨てようとキャップを捻り…閉じた。

あぶね…

そこらじゅうを甘い液体で満たそうと助走をかけた泡たちが、渋々引き下がっていく。

暫く駆け引きが続き、無事に終わらせる。


そこら辺に放置して、二次被害を生まない為の配慮だ。

私はなんと優しさに溢れていることか。

空のペットボトルを潰し、ゴミ箱に放り投げながら思う。


あっ…入らなかった…


相変わらずのコントロールの悪さににやけつつ、自室に戻る。外れる確率の方が高いが、ついつい投げてしまう。

ついでに自分の身体もベッドに放り、先程の一瞬の非日常を想いながらそっと目を閉じた。







真っ暗な世界

緑色の柔らかな光


ぴちょん…ぴちょん…

落ちる水滴の音が美しく反響する


湿った空気

乾いた土の香り


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