第1章:出会い①
~♪
目覚まし時計の代わりにスマホのアラームが耳元で鳴り響く。
俺の朝はこうして始まる。
「おはよう!」
『…ぉはよ……』
2階にある自分の部屋から1階のリビングに降りると、朝からテンションの高い母が朝食をテーブルに運びながら挨拶してきた。
低血圧で寝起きがあまり良くない俺にとって、テンションの高く挨拶してくる母は正直迷惑だった。
「今日から高校生だね。どう、楽しみ?」
『う~ん……別に。』
「別にってなによ! あんたねぇ~、こういう時は素直に楽しみって言いなさいよ!」
『あぁ~、分かったから、大きい声出さないでよ。眠いんだから…。』
「何よ、その態度は。ただ、質問しただけじゃない。あぁ、もう、朝から気分悪いわねぇ。」
《それはこっちのセリフだっつぅ~の。》
こんな感じの会話が朝から繰り広げられる訳だが、正直面倒臭い。
だけど、俺は素直に答えたつもりだった。
確かに高校生活は楽しみではある。
でも、県外から引越してきた俺にとって、新しく始まる高校生活は期待感よりも不安感が勝っていた。
当然のごとく、新しく引っ越して来た俺には友達はおろか知り合いがいないからだ。
父の仕事の関係上、転校は多い方だった。
これまで、小学校を3校も通っている。
小学生の時は転校生という事もあってすぐに友達ができ、そのまま中学校に入学したから友達に困る事はなかった。
中学生の時も父の転勤があり転校する話があったのだが、今まで反対してこなかった俺がゴネたのを見てさすがに可哀想だと思った母が気を利かせてくれ、父が単身赴任するという事で決着した。
そのおかげで中学3年間は転校をする事もなく楽しい学校生活を送る事が出来た。
そして、高校を選ぶ時、小学生の時に仲良かった子と同じ高校を目指すはずだったのだが、また引っ越す事になり、こんな複雑な感情になってしまった。
『じゃあ、行ってきます……。』
「は〜い。お母さんも後で入学式には参列するから。気をつけていってらっしゃい。」
東陽高校は自転車で20分くらいの場所にある。
むしろ近いからこそ、この高校を選んだのだ。
しかし、朝のこの20分という時間は俺にとっては色々と考えてしまい不安感を助長する時間となった。
しかしそのおかげもあって、幸か不幸かあっという間に学校に着いてしまった。
校門を通り過ぎ、駐輪場に自転車を停め、少し歩くと掲示板らしき場所に人がいっぱい集まっていた。
そして、至る所から………
「ねぇ、何組だった?」
「やったぁ~、一緒のクラスじゃん♪」
「最悪。俺達、違うクラスだわぁ~」
おそらく、クラスが発表の紙が張り出されているのだろう。
時間には余裕があったから俺は人が少なくなるのをひたすら待った。
そして、少なくなってきたところを見計らって、人込みを避け、クラス分けが書いてある紙を見た。
『………あっ、あった。5組かぁ。』
俺はクラス分けが書かれている紙が貼ってあった場所から離れ、昇降口に入って行った。
不安からか自然と足取りはゆっくりになったが、1年5組の教室に向かった。
教室に向かう途中、俺と同じように1人で不安そうな顔をしながら教室に入っていく人がちらほら見えた。
正直、自分と同じような人がいる事を知り、少しホッとした。
そして、1年5組の教室を見つけた。
教室に入ると友達同士で喋っている人達のせいかザワザワしていた。
黒板に貼ってある座席表を見つけ、見てみた。
《窓側の後ろから2番目か。》
正直、ホッとした。
1番前じゃなかったからだ。
自分の席に向かう途中、少しクラスメートの顔を見渡した。
《当たり前だけど、知らない顔ばっかだなぁ。》
《………あっ、ここか。》
俺の席は、窓からはグラウンドが見渡せる場所だった。
ぼーっとする事が好きな俺にとってちょうどいい所だ。