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巨大花の謎を追え


 ある日の買い出しの帰り。


 おれは、フィオと二人でアマンの街に降りていた。


 手をつないで公園を歩く。


 花や動物を愛するフィオは、この公園が好きで、アマンに来ると必ず寄りたがるのだ。


 今日も噴水をぼーっと見上げたり、子どもたちと遊ぶ子犬を目で追ったりしている。


 と、花壇に並んだ花を指さしながら、翡翠色に輝く目でおれを見上げた。


「ぱぱ……」

「そうだな。今度はこれも植えてみようか」


 言葉はなくても、目や仕草を見ただけで、言いたいことが分かるようになってきた。


 口数は少ないが、意外と雄弁なのだ。


「ケントくん」


 のんびり散歩していると、涼しい声に呼び止められた。


 振り向くと、黒鹿毛にまたがった騎警隊副隊長が駆け寄ってくるところだった。


「スイレンさん」

「ちょうど良かった。ギルドから呼び出しが掛かっているぞ」

「ギルドから?」


 いったい何だろう。


「ありがとうございます、行ってみます」

「ああ。いい一日を」


 おれはフィオを連れて、ギルドへ向かった。


 顔なじみのギルド職員、シャルロッテのもとへいく。


 いつもは無表情なシャルロッテだが、珍しく困惑しているようだ。


「突然お呼び立てして申し訳ございません。実は、ケントさんに折り入ってご相談がございまして」

「なんでしょうか」


 シャルロッテは神妙な顔で用紙を差し出す。


「ちょっと、奇妙なクエストがございまして」


 さっそく目を通してみた。


 ここから一日ほど南に行ったところに、妖花に苦しめられている町があるという。


「この妖花って、どんな魔物なんですか?」

「それが、魔物ではないのです」


 魔物じゃない?


 いったいどういうことだろう。


「原因はわからないのですが、どうやら植物の突然変異のようで」

「突然変異……」

「はい。花が巨大化して、しかも意志を持っているとか。一週間ほど前から、その花が山道に出没しては商隊を襲うようになったそうで……その道はアマンへの商道になっておりまして、一部物資が届かず、困っているのです」


 シャルロッテは眉をひそめる。


「なにぶん、魔物ではありませんのでランクもわかりませんし、なにより得体が知れず、薄気味悪くて誰も依頼を受けてくれなくて……ケントさんにお願いできないかと思いまして」


「わかりました」


 引き受けると、シャルロッテは「ありがとうございます、助かります」と心底ほっとしたような表情を浮かべた。


 通常のクエストとは異なるため、生態についての報告書が必要になるらしい。


 おれは用紙にサインし、手続きをして、地図を受け取った。


 ギルドを出るなり、フィオが宣言した。


「フィオも、いく」


 何が起こるかわからないので、できたら教会で留守番していてほしいのだが……


 ちらりと見ると、フィオは目をきらきらさせて、小さなこぶしをふんふんさせていて。


「おおきい、おはなさん……!」

「……そうだな、一緒に行くか」







「というわけで、明日はクエストにいってくるよ」


 夕食後にそう言うと、ステラは「妖花ですか」と首を傾げた。


「いったいなんでしょうねぇ? 危険な魔物でなければいいのですが」

「ノア、心当たりないか?」


 ノアは首を振った。


「ドライアドとかマンドレイクとか、植物型の魔物ならたくさんいるけど、ギルドも把握してないんでしょ? 新種かもしれないね」


 おれは、「そうか」とつぶやいて、ふと、ステラが鍋をかき混ぜているのに気付いた。


「それ、何してるんだ?」

「あ」


 ステラは恥ずかしそうに頬を染めた。


「あの、聖水を作ろうと思ったのですが、失敗してしまって……」

「捨てないのか?」

「ええ。こういった、特別な効力をもつ薬や道具をマジックアイテムというのですが、マジックアイテムは、きちんと効力を失うように処理してから捨てるように定められているのです」


 なるほど、特別な薬には特別な捨て方があるのか。勉強になる。


 そんなわけで、翌日、おれとフィオはちょっと変わったクエストに出かけたのだった。







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