ハンモックを作ろう!
いつものように、朝ごはんを食べて、畑の世話をひととおり終えたあと。
おれたちは食堂でくつろいでいた。
透き通る日差しが降り注ぐ。
季節的には秋の入口くらいだろうか。湖畔という立地のおかげもあってか、だいぶ涼しい。
窓から、森の香りを含んだ風が吹き込んでくる。
フィオが窓辺でうとうとと舟をこいでいる。その膝で、フェンリルが丸くなっていた。まるまってぴすぴすと寝息を立てる様子は、狼というよりも黒い猫のようだ。……それにしても気持ちよさそうに寝るなぁ。
と、アシュリーが絵本を持ってきた。
「ぱぱ、これ! これ作ってほしいの!」
そこには木陰でハンモックに揺られている動物たちの姿があった。
「ハンモックか」
「そう! 森で、みんなでお昼寝するの!」
想像してみる。
秋の森。木陰で、風に揺られながら、本を読み、眠る……
「うん、いいな」
「いいね」
「いいですね」
ノアとステラも賛同してくれた。
さっそくノアが図鑑とメモ帳をひっぱりだす。
「必要な道具をリストアップしてみようよ」
「せっかくなら、最高の素材で特別製のハンモックを作りたいよな」
みんなでアイテム図鑑を囲む。
「お。これなんかよさそうだな」
「『クモの糸』ですか?」
「ああ。ウスベニグモっていう蜘蛛からとれる、特別な糸らしい。とっても軽くて丈夫だって。きっとふわふわのハンモックができるぞ」
「ふわふわ……」
「わぁー! たのしみ!」
目を輝かせるアシュリーとフィオとは対照的に、ノアが眉をひそめた。
「蜘蛛……」
「どうした、ノア?」
「う、ううん、なんでもない」
「あ、もしかして、このウスベニグモっていう魔物のこと知って――」
「知らない!」
「そ、そうか?」
即答されてしまった。
ノアは勉強家で、大抵の魔物は知っているし、知らなければすぐに調べるのに、珍しいな。
ステラが首を傾げる。
「この『クモの糸』、どうやら幻のS級レアアイテムのようですね」
「そうなのか?」
「ええ。百年前に、西のノーワ山岳で偶然発見されたのが最後のようです。その軽さと丈夫さから、昔は衣料用としても重宝されていたらしいですが……謎の紛失が相次いで、ついに生産されなくなったとか」
謎の紛失?
「『クモの糸』を狙ったドロボウが多発したってことか?」
「いえ、どうやらそういう類ではないらしく……目を離したすきに消えているそうです。以来、使われることはなくなったそうで……」
「ううん?」
「『幻のS級アイテム』という触れ込みも、素材のレア度というよりは、『手に入れても、いつの間にか消えている』、という意味合いらしいです」
消える?
どういう怪奇現象だろう。少し気になるところだが……
考え込んでいると、アシュリーが飛び跳ねた。
「ふわふわのハンモックー!」
すっかりその気になっているらしい。
「よし、とりあえず行ってみるか、そのノーワ山岳に」
おもしろそうだと思ったら全力投球。やるだけやってみよう。
趣味に全力を注げるのも、スローライフの醍醐味だ。
地図を引っ張り出してきて、ノーワ山岳までの行程を調べる。
「だいたい、五泊六日くらいか」
「あしゅりもいっしょに行く!」
アシュリーはマイリュックをしょって、出発する気満々だ。
「ノアはどうする?」
「ぼ、ぼくはいいや」
いつもはついてきたがるのに、珍しい。
「ステラは?」
「私は、フィオとお留守番しておりますね」
フィオは、ステラに抱っこされて眠たそうにしている。
「じゃあ、二人で行くか」
「うん!」
すぐに準備を整えた。最近クエストを受けることも増えてきたので、旅支度はお手の物だ。
ステラたちに見送られて、教会の外に出る。
「じゃあ、行ってくる」
「気を付けてね」
「アシュリーをよろしくお願いいたします」
しゃがみこんで、リルの頭を撫でる。
「みんなを頼むぞ、リル」
リルは「うぉん!」としっぽを振った。
「いってきまーす!」
元気なアシュリーの声を合図に、教会をあとにした。
まずはアマンまで降りて、馬車を乗り継ぎ、西の街へ向かう。