黄金蝶を探して
寒くないよう厚着をさせて、教会の外に出た。
「それじゃあ、行ってくる。あの子のこと頼んだぞ」
「はい。お気を付けて」
フィオと手を繋ぎ、脳内でイメージを練り上げる。
身体がふわりと浮き上がった。
そのまま一気に上昇して、北東を目指す。
フィオはおれの腰にぎゅっと抱きついている。
「怖くないか?」
フィオはこくりと頷いた。
高度をあげ、誰かに見られないよう、気を配りながら飛行する。
いくつか山を越え、太陽が中天に掛かった頃、ノーザン高原が見えてきた。
フィオを抱えて地面に降りる。
「ここから先は歩くぞ」
どこに黄金蝶がいるか分からない。
上空からでは見逃す可能性があるので、徒歩で探すのが一番確実だ。
平原を蛇行する道を歩く。
砂利や草で覆い隠され、決して平坦とは言えない道を、フィオは黙々と歩いた。
高原の空気は冷たいが、その額にはうっすらと汗が浮かんでいる。
歩きながら、植物の間を注意深く見守る。
様々な花が咲いているが、蝶の姿はない。
と、
「ん?」
遠く、人の姿が見えてきた。
五、六人の集団だ。
「こんにちは」
声を掛けながら近付くと、リーダーらしき女性が、おれを見て微笑んだ。
「あら、可愛い坊や。良かったら、あたしと遊んでいかない?」
次いでフィオに目をやって、くすりと笑う。
「残念、パパさんかぁ」
おれは笑って手を差し出した。
「初めまして、冒険者のケントです」
「初めまして、あたしはカナン。生物学者よ」
「……あの、寒くないんですか?」
カナンはノースリーブにホットパンツ、ブーツという出で立ちだった。
「あたし、雪山でもこの格好よ。いつだってセクシーに、それがあたしのポリシーなの」
カナンは腰をくねらせ、胸の谷間を強調するように腕を組んだ。
目のやり場に困る。
「ところで、可愛い娘さんと若いパパさんが何の用? この先には崖しかないわよ?」
「実は、黄金蝶の粉が必要で」
「あら、そうなの。あたしたちも、黄金蝶の生態調査に来たのよ。でも、まだ見つけられていないの」
カナンはどこか憂いげに、殺風景な高原に目を馳せた。
「黄金蝶は、鱗粉はもちろん高値で取引されるし、美しい姿が好事家に人気で、乱獲されていてね。生きたまま籠に閉じ込められて、飼い殺しにされているのよ。黄金蝶は、自然の中で羽ばたく姿こそが美しいのに……このままでは野生の黄金蝶は絶滅してしまうわ」
カナンは栗色の髪を払って、色っぽく目配せした。
「もし黄金蝶を見かけたら、ぜひ教えてちょうだいね?」
「はい」
カナンたちと手を振って別れた。
くまなく目を配りながら、高原を行く。
道に沿って歩いていると、やがて高くそびえる崖に突き当たった。
「行き止まりか」
別の道を探そう。
そう思って踵を返すが、フィオは動かなかった。
「フィオ?」
フィオはじっと耳を澄ませていたが、やがておれの手を引いた。
「こっち……」