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野菜を収穫しよう



 おれがこの世界に来て、二週間。



 ついに。



 ついにこの日がやってきた。



 黒々とした土から引き抜いたばかりの、真っ白い大根。



 まだ泥のついているそれを、青空に掲げ、叫ぶ。



「採ったどぉぉぉおおおおおー!」

「わーい!」



 この日を待ちわびること十四日。

 丹精込めて育てた野菜たちが、一斉に実ったのだ。



「みんな立派に育ちましたねぇ」

「パパ見て、元気なナス!」

「きゅうりもいい感じだよ」

「トマト、きれい……」



 タマネギ、パプリカ、ピーマン、にんにく、セロリ、ズッキーニ、大豆、エトセトラエトセトラ。



 眩い太陽の下、鮮やかに実った野菜を、全員で収穫していく。



 ステラはじゃがいもを堀り出そうとしているフィオに手を貸し、ノアは真剣な顔でトウモロコシをもぎ、アシュリーは全身を使ってカブを引っこ抜いては尻もちをついて楽しそうに笑っている。



「今日は収穫祭だ!」

「収穫祭だー!」



 採れたての野菜を裏の井戸に持っていき、冷たい水でじゃぶじゃぶと洗った。

 空は高く、風は透き通っている。

 真っ赤なトマトの表面で水が跳ねて、フィオの頬に当たった。



「つめたい……」



 その頭上には、リスがちょこんと乗っている。

 いつか助けたリスはすっかり元気になり、よくこうしてフィオにまとわりついていた。



 水滴を纏った野菜たちがきらきらと輝く。

 赤に緑に紫にオレンジ。

 みんな可愛いなぁ。なんだか感慨深い。



 きれいに洗った野菜を台所に運ぶ。



「あ、卵を忘れてました」

「おれが取ってくるよ」



 ステラにそう伝えて、飼育小屋に向かう。



 前に召喚したヤギに、アマンで買ってきたにわとり四羽も加わって、卵も収穫できるようになった。

 産みたての卵を籠に入れて台所に行くと、すでにステラたちは調理に入っていた。



「おかえりなさい。卵、ありがとうございます」



 小麦粉を練っていたアシュリーが、両手を広げた。



「あっ、パパ、みてみて、手がまっしろー!」

「おー。がんばってるな」

「ねえケント、フィオも包丁使ってみたいって。持たせていい?」

「ああ、包丁は重いから、まず果物ナイフで練習しような」

「うさちゃん、つくりたい……」



 フィオを台に立たせて、後ろから手を重ね、一緒にリンゴを剥く。



 火に掛けた鍋がことことと音を立てて、いいにおいが漂い始めた。

 隣ではステラがナスを切っている。



 なんか、スローライフの醍醐味ってかんじするなぁ。



 言い知れない幸せがこみ上げて、隣のステラに話しかける。



「なあ、ステラ。こうして一緒に台所に立ってるとさ、なんか――」

「!」



 ステラがぱっと顔を上げた。

 珍しく興奮しているみたいで、なめらかな頬が桜色に染まっている。



「わ、私もいま、同じ事を考えてました! ……その、あのっ、まるで、ふ、ふ、ふうふ……!」

「親子みたいだよな」

「は、はひ!? 親子っ!? お、おや、親子!? あっ、親子ですね!? うん、ほんと! 親子みたい! むしろ親子以外のなにものでもないですね!?」

「ステラ、優しいし、面倒見いいし、長女っぽいもんなあ」

「ハイ、ソーデスネ……」



 なんだか声が固いなと思って見ると、ステラは死んだ目でひたすらナスを刻んでいた。



 あ、あれ? どうした? 急にテンションさがったな……っていうか、ナス、そんな細かく刻んで大丈夫?



 と、リンゴを切っていたフィオがむふーと満足そうに息を吐いた。



「できた……」



 そのままうさリンゴで遊び始めたので、台から降ろして、アシュリーと合流させる。



「フィオ、いっしょにこねこねしようねー!」

「こねこね……」



 ついでに、鍋をかき回しているノアに声を掛けた。



「ノア」

「ん?」



 ノアが振り返るが早いか、ドングリを投げてみせる。



「今の、何粒だった?」



 するとノアは自信ありげに唇を吊り上げた。



「八」

「正解」



 不意を突いたつもりだったが、だいぶ慣れてきたらしい。



「じゃあ、今度はじゃんけんしながらやってみようか」

「え、あ、えっ?」

「ほら、最初はグー、じゃんけんぽん」

「あ、わわっ」



 左手でじゃんけんしながら、右手でドングリを投げる。



「さあ、ドングリは何個で、じゃんけんはどっちが勝った?」

「そんなの、見れないよ!」

「はいもう一回」

「あ、あ、うわっ」



 ノアは慌てふためきながらもグーを出し、勢いよく叫んだ。



「ドングリは五個っ! じゃんけんはぼくの勝ちっ!」

「正解」

「やった!」

「ところで、鍋こげるぞ」

「あーっ!」



 笑いながらタマネギを刻む。



 おれの手元を見て、ステラが感心したように呟いた。



「ケントさんは、なんでもできるのですね」

「一人暮らしが長かったから。でもやっぱり、ステラには負けるよ。いつもおいしい料理、ありがとうな」



 するとステラは、ぱっと俯いた。



「は、はい」



 その目元がうっすらと朱色に染まっている。

 どうやら機嫌は治ったようだ。






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