スキルの正体
数時間後、おれたちは再びギルドの門をくぐった。
クエスト達成の報告と、魔物の核を換金してもらうためだ。
アシュリーたちは隣の食堂に座らせ、白パンのはちみつカスタード漬けをオーダーしておいた。
一人で窓口に向かうと、例のごとくシャルロッテが対応してくれた。
「こちらクエスト達成の報酬と、核の換金分です。お疲れさまでした」
「あの」
おれは意を決して口を開いた。
「ついでに、スキルを調べてもらえませんか?」
アシュリーたちの成長が異様に早くて、ずっと気になっていたのだ。
ステラの話では、三人とも学園にいるときはどちらかというと落ちこぼれだったという。
それがここに来て魔術で温泉を湧かせるわ、ゴブリンを倒すわ……もしかすると、おれの知らないスキルが影響しているのかもしれない。
「かしこまりました。こちらの石板に手をかざしてください」
緊張しながら手をかざす。
空中に、光る文字が浮き出た。
シャルロッテがメガネをくいっと上げる。
「ケントさんが現在お持ちのスキルはひとつ。――『願望反映』ですね」
「願望反映? それはどういう……」
「少々お待ちください」
シャルロッテそう言って、分厚い本をめくり始めた。
無表情だが、眉間にしわが寄っている。あまり例のないスキルらしい。
しばらくして、その手が止まった。
「ああ、ありました。『願望反映:所持者が手塩に掛けて育てたものが、何でもすくすく育つ』というスキルです」
「なるほど」
ラディエルに頼んだ通りだ。自給自足に向けて、野菜がすくすく育つように――
「待て、何でも!?」
「はい。分類としては、補助系のスキルですね。ケントさんが真心を傾ければ傾けるほど――対象との絆や結びつきが強ければ強いほど、育てる相手がよりよく成長します」
そういうことか! と胸中で手を打つ。
つまりこのスキルは野菜に限らず、人間が相手でも反映されるのだ。
そうか、それでアシュリーたちの成長が異様に早いんだな! ……野菜も子どもも同じ扱いなんだ!?
いつもは無表情なシャルロッテが、興味深そうにしている。
「かなり珍しいスキルですね。私も初めて見ました」
「あの、このスキルのこと、内緒にしてもらえますか?」
「はい、もちろん。ギルドは秘密厳守が鉄則ですから」
この人なら安心だ。
そう思っていると、シャルロッテがそわそわと口を開いた。
「それで、あの、……お子さんたちは……」
「あっちで待たせてる」
「……そうですか」
シャルロッテはすんっと真顔になり、それきり仕事に戻ってしまった。
礼を言って、食堂に足を向ける。
「待たせたな」
「あっ、パパー! これおいしいよー!」
アシュリーが嬉しそうにおれを見上げる。
隣では、べたべたになったフィオの口を、ノアが甲斐甲斐しく拭いていた。
「はい、あーん!」
「あーん」
口の中に優しい甘さが広がる。
白パンのはちみつカスタード漬け。
異世界版フレンチトーストといったところか。
今度作ってみよう。
ギルドを出て、露店街に赴く。
もらったばかりの報酬で、切らしていた食材と生活品を買い込む。
パンに小麦、調味料も揃えた。米を買えたのが地味に嬉しい。いつか和食に挑戦したい。
途中、花屋に寄った。
「フィオ、庭に花壇を作ろう。どんな花を植えたい?」
「!」
フィオは嬉しそうに店頭の花を見比べて、いくつかの種を選んだ。
「よし、あとはみんなの服を買ってくぞ」
とたんにアシュリーの顔が輝いた。
「お洋服? いいのっ?」
露天より店舗のほうが品揃えがいいだろう。
大きめの服屋を選んで入る。
しかし、子ども服ってどう選べばいいんだろう。
おれの心配をよそに、アシュリーは嬉しそうにパステルカラーの服を手に取った。
「これかわいいーっ! パパ、きさせてー!」
「アシュリー、だめ、脱がないの! 試着はあっち!」
アシュリーは自分で選べるとして、問題はフィオだ。
ぼーっと立っているフィオに、チューリップ柄のチュニックをあてがう。
「これなんかどうだ?」
「うわ、ダサい」
ノアに一刀両断にされてしまった。
「もっと動きやすい方がいいんじゃない? たとえば、これとかさ」
ノアが選んだのは、ドクロのついた、トゲトゲでロックな上着だった。
「……なんというか、あー、すごく……アグレッシブだな」
うすうす気が付いていたが、ノア、ちょっと中二病入ってないか?
フィオの微妙な表情の変化を読み解きながら、なんとか選ぶ。
と、ノアが今度は大人用のロングコートを持ってきた。
「ねえケント、これとかどうかな?」
黒い重厚な生地に、ところどころ銀の装飾が入っている。
「ステラにか? 渋すぎないか?」
「ケントにだよ」
「え、おれ?」
思いがけない言葉に驚く。
「いや、おれは必要最低限でいいから、自分たちの服を――」
「いいから着なよ。……絶対かっこいいし」
「何か言ったか?」
「別に」
試しに、その場で羽織ってみる。
今まで女の子に服を選んでもらったことなどなかったので、妙に恥ずかしい。
「わー、パパ、かっこいーっ!」
「つよそう……」
ノアは嬉しそうに腰に手を当てる。
「ちょっとはマシになったんじゃない?」
「そっか」
いい機会だから買っておくか。
実は、アシュリーが夜な夜なおれの服を持っていくので、足りなくなっていたのだ。
「ステラの服はどうしようか」
「うーん、自分で選びたいんじゃないかな? サイズのこともあるし。今度一緒に買い物にきたら? きっと喜ぶよ」
「そうだな」
今日は代わりに、何かお土産を買っていこう。
◆ ◆ ◆
教会に着いたのは、日が暮れはじめた頃だった。
「おかえりなさい」
ステラはゆっくり休めたようで、目の下の隈はすっかりなくなっていた。
黒いコートに身を包んだおれを見て、微笑む。
「まあ、ますます男前になられましたね」
「ありがとう。これ、お土産」
「え?」
白い花のついた髪飾りを受け取って、ステラが目を見開く。
繊細な細工を見た瞬間、ステラの顔が思い浮かんで、思わず買っていた。
「あ、ありがとうございます……」
ステラは頬を染め、そっと髪に挿した。
「どうですか?」
「似合うよ」
ステラは嬉しそうにはにかんだ。
その笑顔は年相応で、ステラもまだ子どもなんだよな、なんて今さらのように思い出す。
その晩、アシュリーたちによるファッションショーが行われた。
おニューの服に身を包み、初めてのクエストを興奮しながら説明するアシュリーたちの声に耳を傾けながら、夕食を囲む。
食料もたっぷり買い込んだし、しばらくはもちそうだ。
◆ ◆ ◆
みんなが寝静まったあと、おれは部屋で机に向かっていた。
今日一日で、多くの収穫があった。
それぞれの課題を書き出す。
読むときと同じく、日本語ではない文字がするすると出てきた。
アシュリーの課題は、魔術の制御。
爆発力はあるが、集中力に欠けるのかコントロールが甘い。
……あとは、すぐにすっぽんぽんにならないこと。
ノアは、柔軟な思考と洞察力の強化。
動体視力と視野を広げること。
フィオは、魔力の底上げと、自己肯定感を高めること。
ひととおり書き出して、ペンを置く。
――おれが持つ唯一のスキル、『願望反映』。
シャルロッテは、おれが育てた対象は、おれが望むように育つと言っていた。
アシュリーたちは、まさに原石だ。
これからどんどん磨かれていくのだろう。
三人がどんな宝石になるのか考えると、とてもわくわくした。
焦る必要はない。
ゆっくり、のびのび、何よりもあの子たちらしく育ってほしい。




