魔力とは
奥まった、静かな部屋。
おれはベッドの横でうなだれていた。
目を閉じたフィオの青白い顔を、月明かりが照らす。
アシュリーはさっきまでせっせとおれの服を運んで、フィオの周りに敷き詰めていたが、ステラに諭されて子ども部屋に戻ったのだろう、いつの間にか来なくなった。
ノアが持ってきてくれた燭台が、サイドテーブルの上でジジ……と微かな音を立てた。
その横に積み上げた本を見遣る。
フィオの看病をしながら、片っ端から本を漁って知った。
召喚術は、召喚時間が長いほど、魔力を消費するらしい。
つまりは時給制なのだ。
だから召喚は、基本的に短期決戦に用いられるものであり、長期に使役したい動物には向いていない。
それでは、魔力とはいったい何か。
それは人間がもって生まれた生命力――つまり、フィジカルやメンタルと密接に結びついているらしい。
魔力とは、生命力。
呪文も使わない初めての召喚、小さなフィオには相当な負担だったに違いない。
「ごめんな、フィオ」
噛み締めるように呟いて、丸い額を撫でる。
薄いまぶたが、ふっとほどけた。
翡翠色の瞳がおれを映す。
「……ぱぱ」
おれはよほど不安そうな顔をしていたのだろうか。
フィオは柔らかく笑うと、手を伸ばした。
「いいこ、いいこ」
そう言いながら、頭を撫でてくれる。
小さな手のひらは温かかった。
「…………」
うずくまり、額をベッドに押し付ける。
本当に不甲斐ない。
魔術士、剣士、召喚士……こんなに小さいのに、みんな、それぞれ夢を抱いている。
与えられた能力に甘えているだけじゃだめだ。
もっと学ぼう。この子たちのために何ができるのか、ちゃんと考えて、向き合おう。
◆ ◆ ◆
食堂に入ると、鍋を火にかけていたステラが振り返った。
「ミルクを温めたのですが、飲みますか?」
「ありがとう」
ステラは湯気の立つカップを置きながら、優しく微笑む。
「小さい子が魔力切れを起こすのは、よくあることですよ。食べて眠れば、すぐに良くなります」
「ああ。でも、勉強が足りなかった。せっかくみんな才能があるんだから、ちゃんと伸ばしてやらないと」
ステラは言いづらそうに切り出した。
「そのことなのですが……実は、あの子たちは、学園ではあまり成績が良い方ではなくて……」
「え?」
「教師の中には、その……落ちこぼれだなんて、揶揄する方もいて……」
落ちこぼれ? とてもそんな風には見えなかった。
アシュリーは巨大な火柱を出現させたし、ノアは昨日より格段に上達していた。
フィオは魔力切れを起こしたものの、召喚そのものには成功している。
「ここに来てから、三人とも、驚くような速さで成長して……とても不思議です」
「…………」
カップを片手に考え込む。
この土地に、何か特別な力があるのか?
それとも三人がおれと接していることと関係があるのだろうか?
思考を巡らせていると、ふとステラの手元が目に入った。
「ところでそれ、何を縫ってるんだ?」
ステラの膝には、昨日に引き続き、布と裁縫セットが乗せられていた。
「あの子たちの服です。教会にあった服をお借りして」
「……そっか」
気付かなかった。
食料だけじゃない、他の生活用品だって、何かと入り用なのだ。
今まで倒した魔物の核は、換金してほとんど使い果たしてしまったし……やっぱり、もうちょっとお金が必要だ。
それに、少し試してみたいこともある。
その夜、おれはひとつの決心を固めたのだった。
ブックマークやしおり等々、ありがとうございます!
もしよろしければ、最新話下部の評価ボタンを押していただけますと励みになります!