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ロボ娘のち少女、ときどきゾンビ  作者: 京衛武百十
ふたりの章
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常に変化し続ける

真っ新な雪原を、ソリに改造したリアカーを引きながら、電動スノーモービルは進む。雪に埋もれて何も見えないけれど、自動運転をサポートする為のマーカーを兼ねた、埋め込み式の無線給電器の信号を頼りにゆっくりと進む。それが、ここがまだ人間の生活圏だと教えてくれる。さすがに人間が日常的に暮らしてる場所でないと、ここまで整備されないからね。


でも、見渡す限りの雪原。何時間移動しても変化がない。


「…さすがに飽きてきたなあ…」


リリア・ツヴァイが呟く。


ロボットは本来、同じことを延々と繰り返すのは得意でむしろ変化を嫌う傾向がある。彼女も機械の体を持ってればきっと気にならなかっただろう。だけど人間の肉体は、全く同じ状態を維持できない。同じ姿勢を続けてると血行が悪くなり、様々な問題を生じる。


だからロボットとは逆に変化を求める傾向にある。


人間は、と言うか<生物>は、常に変化し続けないと生きられないんだ。代謝を行い、常に自らを更新し続ける。


人間が宇宙を目指したのも結局はそれが根源にあるらしい。


生物にとって<現状維持>は<死>を意味する。どんなに僅かであっても見た目には分からなくても、生物は常に変化し続けることで生物たり得る。


私達ロボットも、構成する素材の耐久性が千年万年単位になってからは、加えてマイクロマシンによる自己更新の機能を得てからは経年劣化を抑制することができるようになった。だから、メンテナンスさえ受けていられれば、どうしても劣化する部品を交換していられれば、理論上は一万年でも稼働し続けられる(ただし、常に更新されるシステムの進化に追いつけず陳腐化するので、人間社会の中では百年ほどで使い物にならなくなるけれど)。


だけどそれは、やっぱり生物の<代謝>とは全く違う。生物の代謝は、自らの肉体を常に健全に保つ為という以上に、刻々と変化する状況に合わせて自らを変化させていく為のものだ。例えば、<食事などによる微量な有害物質の摂取>という状況の変化に応じて、代謝によってそれを体外に排出する。


そもそも、生物の肉体にとって必須の物質であっても、実はそれ自体が有害物質でもあることも多い。


酸素や水がその代表だろう。どちらも必須ではありながら、反面、有害でもある。この矛盾を、代謝によって折り合うのが<生物>だ。


この矛盾こそが生物だと言えるかもしれない。


それが存在しない私達ロボットが生物を本当に理解できることはないかもしれない。


そんなことを考えつつ、私はただゆっくりと流れる景色を記録し続けたのだった。



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